
「久しぶりじゃん、元気してた? 会おうよ」
元カレから連絡が来たことがあります。記憶力がないので、正確にはいつだったか思い出せない。あまり楽しくない思い出なので、脳が記憶を拒否しているのかも。とにかく場所は池袋でした。美大卒でアートに詳しく、話していて飽きない人でした。
目の前にあるものをちゃちゃっと写生してくれたり、前衛的な音楽を教えてくれたり。当時を思い出すと結構楽しかったんです。私も彼と別れたときは幼かったな、友達として今なら意気投合できるかなと。
■そう、モトサヤのご相談でした

「俺さ、彼女できて結婚する予定なんだけどさ」
めでたい話でした。「おお、よかったじゃん」と答えようとしたのに、話は続きました。
「でもさ、俺がやっぱり一番いいなって思ったのはお前だったんだよ」
「ハァ?」
「んで、やっぱり
あ、一応「ハァ?」って対応をした理由を説明させてくださいね。私、この男性と付き合っていたのは18歳、女子高生のころ。そこから10年たっており、私はその間に大学進学・就職。その間、別の相手と婚約破棄もあったし、精神科へ1年通院して性格もかなり変わりました。
没交渉だった元カレはその経緯を知りません。けれどそれくらい人間が変わりうる期間をおいて、よく「お前が一番」って言えたなと、びっくりしんたんです。あなたの記憶にある私はフリーズドライされた女子高生のままかもしれません。けれど、こっちは違うぞと。
■「元」カレになるには、理由があるんだよ

私の、アホ、バカ、マヌケ。元カレが「久しぶりに会おう」なんて言ってくるときは、マルチ商法の勧誘かモトサヤの誘いしかないっつーの。心の声が説教をかましてくるので、すっかり陰鬱になりました。
「とにかく今の彼女を大事にしなよ、きっとただのマリッジブルーだよ」と伝えてフラフラ帰宅。
そう、彼はアーティスティックで面白かったけれど、人の気持ちを軽視するヤツでした。「俺が好きだからいいでしょ」というロジックで、私の好みを無視して走りだすタイプ。
10年前、私が無印良品の家具にあこがれていると語ったことがあります。彼は怒って「そんなテンプレを好むくだらない人間になるのかよ」と言ってくる人だった。今なら「その通りだよ、この個性派気取りがっ!」と言い返してやれるけれど、当時は自分に感性がないんじゃないか、無印を好きな自分はダメなんじゃないか……と傷ついていました。
さすがにそれだけで別れたわけではないけれど、別れへ至るまでに積み重なる傷つきがあったんです。
■「彼といるくらいなら一人がいい」と決めたあのときを思い出して

元カレと安易にヨリを戻すということは、当時の傷ついた自分をないがしろにすることです。あのとき泣いた自分より、「もう新しい出会いを探すのは面倒だし」という惰性を選ぶこと。元カレ・元カノって、お互いをよく知っているからうまくやれそうな気がします。けれど本当はいっぱい傷ついて、傷つけたマイナスの関係なんです。
元パートナーはまったくの他人と恋愛関係になるより、本来は難しい相手。かつて別れた原因と同じ轍を踏まないよう、じっくり話し合ってようやくのゼロスタートでしょう。まだ「当時は好きだったけれど仕方ない事情で」なら復縁も活路になりそうですが、相性が悪くて別れたならなおさらのことです。
少なくとも、当時の自分は「彼とよりを戻すくらいなら一人がいい」と決心したはず。その気持ちを抱くほどの何かがあったということです。偶然にも私はあのとき「ハァ?」と声を出せたことが、身を助けました。普段からこういう発声をしておかないと、いざとなってもリアクションできないものです。これからもゲスいリアクションが出せるよう、夜道でときおり「ハァ?」と発声練習をしています。そろそろ、職質されるかも。
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トイアンナ
外資系企業で消費者インタビューを経験後ライターとして独立。500人超のヒアリングから女子の楽しさも悲しさもぎゅっと詰め込んで文章にしています。現在はアラサーの恋愛とキャリアを中心に多くの媒体で連載中。
公式サイト:トイアンナのぐだぐだ