
『〇〇な男、〇〇な女』。男女の違い本の3つの弊害とは?
- 更新日:2020/05/23
- 公開日:2020/05/23
2002年に発売された『話を聞かない男、地図が読めない女』(主婦の友社)は、当時、ベストセラーになりました。それ以降も、『〇〇な男、〇〇な女』のようなタイトルの、男女の違いを、さまざまな面から解説した本は、定期的に発売されています。
男女の違い本が売れ続ける理由とは?
なぜ、こういった「男女の思考や行動はこんなにも違う」「男性の考え方はこうで、女性の考え方はこう」と主張する本が売れ続けているのでしょうか?
理由は、男女関係を円滑にすすめるために、相手のことを理解したいという需要が大きいからでしょう。
男女の違い本の3つの弊害

「男女にはこんなにも性差がある」と断言してくれる本は、「だから、分かり合えなくても仕方ないし、分かり合うためには、相手の気持ちをもっと考える必要がある」と納得感を与えてくれるというメリットがあります。ですが、弊害も考えられます。
男女の違い本の弊害1:男性はこう、女性はこう、という思い込みを強化し、個人の本質が見えづらくなる
「考え方や感じ方に自分と違いがある」のは、同性でも同じことです。それにも関わらず、違いを性差のせいばかりにしてしまうと、「男性(女性)だから〇〇に違いない」と、相手の本質を見誤る可能性があります。
男女の違い本の弊害2:社会的要因による違いを、「生まれながらの性差」だと誤解してしまう恐れがある
「こういう性差がある」と統計や実験のデータなどを用いて説明されたとき、そのまま鵜呑みにしてしまうのは危険です。
なぜなら、生物学的な性差だと主張されているものが、実は、社会的要因によるものだった、というパターンもあるからです。
たとえば、婚活の際、女性は相手の年収を重視し、男性は相手のルックスを重視する、というデータがあるとします。このデータを用いて、男性の方が結婚相手のルックスを重視する生き物だ、と主張することも可能です。
ですが、実際には、そうとは言い切れません。なぜなら、現状、日本の社会では、女性の平均収入は男性の平均収入よりも少なく、妊娠・出産してから働き続けることが困難なことも多いため、パートナーに経済的余裕を求める傾向にあるからです。つまり、「女性が経済的余裕を、男性が容姿を求めること」は、本能的な性差ではなく、社会的な要因によるものだと解釈することもできるわけで、女性が男性よりも稼げる社会であれば、女性の方が男性の容姿を気にかける、という可能性もあるのです。
もうひとつ例を挙げましょう。
日本は平均寿命の長い長寿国として知られています。とくに、女性の平均寿命は男性より長い、ということはみなさんもご存知でしょう。WHOの調査によると、2016年時点の日本人の平均寿命は男性が81歳・女性が87歳です。(※1)ここだけ切り取ってみると、「女性は男性より長生きする生き物」に見えます。
2016年時点では、インド人の平均寿命も、男性67歳、女性70歳と女性の方が長くなっています。ですが、1960年時点では、男性42歳、女性40歳と平均寿命は男性の方が長くなっているのです。1960年のインドでのデータだけを切り取れば、男性の方が女性よりも長生きする、という性差を主張することもできるでしょう。(※2)
なぜ、1960年代に、女性の平均寿命は、男性よりも短くなっていたのでしょうか? 一つの要因として、性差別が考えられます。インドは男女差別の激しい国として知られています。(とはいえ、2018年のジェンダーギャップ指数は108位と日本よりも上位なので、日本の方が男女差別は激しい、と解釈することもできる)2018年には、インドでは、年間24万人近い女児が、性差別により命を失っていたといいます。(※3)2018年ですらこういった状態なのですから、1960年代には、より多くの女性たちが性差別により平均寿命を縮めさせられていたとしても不思議はないでしょう。
つまり、データの切り取り方によって、「こういう性差があります」と言い切ってしまうことはできるけれど、それは社会的要因によるものだった、という場合も多いということです。
男女の違い本の弊害3:性差と性役割をごっちゃにして語られることが多く、「女(男)ならこうするべき!」というプレッシャーを生みやすい
エンターテインメントとして、男女の違い本を楽しむのはいいでしょう。
ただし、「性差」イコール「性役割」として受け入れるのは危険です。
たとえば、代表的な性差として、女性は妊娠・出産ができる機能が備わっている場合が多く、男性にはない、というものがあります。(トランスジェンダーの男性が妊娠をする、などの例外はあります)
だからといって、「女性は妊娠・出産が可能」イコール「女性なら出産するべき」ではないですよね。
性差について扱った本の中には、「こういう性差がある」だから、「女性(男性)なら、こうするべき」というふうに、「性差」と「性役割」をごっちゃにして語っているものも見受けられます。
そういった情報を鵜呑みにしてしまうと、自分や周囲の人に、無用なプレッシャーをかけてしまうことにもなりがちです。
さいごに

男女の違い本って、「男性(女性)ってこういうことある!」という納得感を伴うものも多いので、娯楽として読むのは楽しいですよね。本を読んで、相手を理解しようとし、関係が円滑に進むようになることもあるでしょう。
ただし、「個人の本質を見失う」「社会的要因による違いなのに、生まれながらの違いだと誤解する」「性役割の押し付けを誘発する」といった弊害も考えられます。そのため、「人間関係を良くする」ことを目的として男女の違い本を読む際は、鵜呑みにしすぎない姿勢も必要です。
※2
▼バックナンバーはこちら
・2018年の男女平等ランキング。149カ国中、日本は何位?・なぜか上から目線で説明してくる、男の「マンスプレイニング」とは?
・「彼女を自分のモノ化する」「暴力をふるう」男性への対処方法
・女性はなぜ「女性らしい」言葉づかいを要求されてきたの?
・なぜ男は「愛され」を目指さないのか
▼著者:今来さんの他連載はこちら
・妊活・お金・介護・美容…40歳までに知っておきたいことリスト・【連載】なんで子供が欲しいの?
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