
「母性」は子供を産んだら芽生えるのが当たり前?
- 更新日:2020/08/14
- 公開日:2020/01/24
「生まれたばかりの赤ちゃんとはずっと一緒にいたいはず。それがお母さんでしょう?」「お腹を痛めて産んだ子供なんだから可愛くないわけがない」など、「子供を産んだら愛おしいという想いが自然と湧き上がってくるもの」と考えている人って多いですよね。
こういった「母親が子供を愛おしく感じ、育てたいと感じる気持ち」のことを、「母性」と表現されることがよくあります。
そしてなぜか、「子供を愛し、育てたいという欲求は母親の本能である」と強調されることは多いのに、「子供を愛し、育てたいという欲求は父親の本能である」「子供が生まれたら父性が育って当然」と言われることはありません。
なぜ、女性だけ、「母性」があって当然かのように思われているのでしょうか?
母性ってなんだ?

「母性」については、人それぞれのイメージがあるでしょう。
母性には、大きくふたつの意味が含まれていると考えられます。ひとつは、妊娠や出産・授乳など、身体的に女性にしかできないもののこと。もうひとつは、子供を愛し育てるという、実は女性だけの特質ではないものです。
子供を産む、ということに関しては、現状、女性だけにしかできないことです。ですが、育てることに関しては、男女ともに行うことができますし、事実、子育てに奮闘している男性も存在しています。
それにも関わらず、「母性があるから女性の方が子育てに向いている」と考える人もいます。というより、女性に子育てを任せたいという人にとって「母性」は、便利な言葉なのでしょう。
「女性には母性がある」と主張することで、得をしているのは誰?

さて、なぜ、子供を愛し育てる行為が母性と呼ばれることになったのでしょうか?
「母性は発明された概念だ」という説もあります。(※1)
近代国家の発達時期において、経済力を強化するために、「男性は外で働き、女性は家庭内の仕事と育児を担うことが効率的」だという政治的な思惑から、「母性」という言葉が使われだし、「女性は子供を産み育ててこそ一人前」「母親なら、子育てを喜んでできて当然」という風潮が賛美されるようになったというのです。
「母性神話」に苦しめられる女性たち

「母性」という言葉を誰が発明したのか、は不明です。誰かが意図的に作り出した言葉だとしても、母性という言葉によって苦しめられる人がいないのであれば何の問題もありません。
ですが、実際には、「母親なら子供と一緒にいる時間が一番大切なはず」「子供がいるのに、すぐ仕事復帰したいなんて言わないよね。普通の母親なら」といった母性神話(母性があって当然とする価値観)に苦しめられている人も少なくありません。
ここでは、女性が母性神話に苦しめられる事例をご紹介していきます。
母性神話に苦しめられる女性ケース1:女性なら子供が欲しい・育てたいと思うのは当然
「女性なら、子供が欲しいと思っているはず」「子育てしたいと思って当然」「子育てって労働ではなく、女性にとっては喜びでしょう?」などの母性神話に苦しめられる女性もいます。
自分は子供が欲しくない、と言うのがはばかられたり、育児が辛いと言えなかったりする女性も多いでしょう。
母性神話に苦しめられる女性ケース2:母親なら、子供がかわいくて当たり前
子供は自分とは違う人間です。子供と気が合わなかったり、子供のことがかわいく思えなかったりすることも当然あるでしょう。
ですが、母性の存在を信じている女性は、「母親なのに、子供がかわいく思えない私って母親失格」「子育てを休みたいなんていえない。子供はかわいいはずだからがんばらないと」と自分を追い詰めてしまうことがあります。
母性神話に苦しめられる女性ケース3:子供は母親が育てるべき
アメリカではベビーシッターを頼むのは当たり前のことです。ですが、日本では、他人に子育てを任せることは非難の対象になりがちです。最悪の場合、父親が育てているのに、「お母さんと離れ離れなんてかわいそう」などと言われることもあります。
このように、「子供は母親が育てるのが一番」という考えは、ワンオペ育児を助長することにつながります。
良き母親を目指すより、「ふたりで親になる」を目指そう

母性という言葉が、自分を励ましてくれるものであるなら、なんの問題もありません。
ですが、「母性があるはずなんだから、がんばらなくては」「自分は女性なのに、母性がないなんておかしいんじゃないか」とプレッシャーを感じるのであれば、母性という言葉は、「誰かの利益のために作りだされた言葉かもしれない」ということを思い出していただければと思います。
「母親はこうあるべき」と高い理想を掲げ、良き母を目指すのは大変です。良き母親より、夫とふたりで良い親になることを目指してみませんか?
※1「母性は父権社会のイデオロギーであり、近代が作り出した幻想」だと説いたのは、フランスの歴史学者で哲学者のエリザベット・バダンデール。1980年に上梓した著作『母性という神話』(筑摩書房)において、「母性愛は本能ではない」と主張した。
▼バックナンバーはこちら
・「料理してないの?旦那さんかわいそう」。本当にかわいそうなのは誰?・「男女間の賃金格差」は差別?役割分担?
・女性が王子様を待ち続けてしまう理由。シンデレラ・コンプレックスとは?
・「女性の社会進出」という言葉に違和感。家事・育児は社会貢献じゃない?
▼著者:今来さんの他連載はこちら
・妊活・お金・介護・美容…40歳までに知っておきたいことリスト・【連載】なんで子供が欲しいの?
・「仕事早すぎ!」と驚かれる私の仕事術を公開。遅くなる理由を捨てる
この記事がいいと思ったら
いいね!しよう
Related関連記事
Pick Up編集部ピックアップ
Rankingランキング
-
1
ライフ
「シングルマザー」や「貯金ゼロ」で子供を産んでも大丈夫?
-
2
ライフ
「レディースデーって男性差別じゃない?」って聞かれたらどう答える?
-
3
ライフ
パパイヤ期はいつまで?ママがフォローしたほうがいい理由【#55】
-
4
ライフ
不妊治療の医療費控除は利用しなくちゃ損!お金が戻ってくるだけじゃない
-
5
ライフ
子どもに「なんでわかってくれないの? 」って思ってませんか?
-
6
ライフ
「子供が欲しい」と積極的に思えない私はおかしい?【連載】なんで子供が欲し
-
7
ライフ
『3人産んだ今だから言えること』我が家の少子化対策#1
-
8
ライフ
急な人事異動でショックを受けているあなた…実はそれ、チャンスですよ!
-
9
ライフ
誰でもいつでもできる!自己肯定感を一瞬で上げる24の方法
-
10
ライフ
2人の子持ちが語る、子供を育てるメリット・デメリットとは?【連載】なんで子