
無反応?無視?~返事をしない子にはどう対処したらいいの?
- 更新日:2020/12/17
- 公開日:2019/09/04
問いかけに対して返事をするというのは、世の常識のように思えます。人から話しかけられた時にまったく無反応というのは、ちょっとあり得ないことのようにも思えます。
かけるは、当時中学2年生。市でやっている、生活保護世帯の子どもたちを対象とした無料学習塾に参加していた生徒です。中学校に入ってから、学校には完全に行っておらず、高校進学を心配した父親に連れられて無料塾にやってきました。
【CASE20】返事をしない子と、どうやってコミュニケーションをとるか

返事をしない。目も合わせない。かと言ってすごく反抗的な態度をとるわけでもない。私たち大人が「コミュニケーションをとりたい」と思っていても、子どもたちの側からの反応が薄く(もしくは皆無)、とてもそこに意思疎通など望めないような場合、皆さんはどうされますか?
それが、我が子なら、家族なら、教え子なら……。
それは意思なの? 性格はどう? その時の心情は? 生い立ちに問題はない? 親子関係は? ついつい、その子の分析にはしってしまいますよね。
たしかに、相手の背景を理解しようとする姿勢も大切です。しかし、本当にコミュニケーションを取りたいと思うなら、相手を分析する前に、まずは自分自身を振り返ってみましょう。
反応をしないという反応をしている
まず大前提は、無理に相手の話を引き出そうとしない、ということです。
私たちは非常に無意識に、相手の反応をある程度期待して言葉を発したり行動をとったりしています。「この話題なら、こんな反応が返ってくるかな」とか、「きっと、こう言ったらこう返事がくるだろう」とか。もっと言ってしまえば「こちらが何かを話しかけたら返事をするのが当たり前」という思いや考えが根底にあります。たしかに、声をかけられれば返事をするというのは、すごく普通のことのように思えます。
その観念をいったん脇におきましょう。
その子は、「応えない」という反応を返している。
そう受け取ってみましょう。
「応えたくない」のか「今は、返事をしたくない」のか「どう応えていいのかわからない」のかはわかりませんが、とにかく返事は返ってこなかったという事実だけをとらえるのです。
応えない理由は様々
そうした子たちに対して私たちは、つい、返事をしない子・反応をしない子・コミュニケーションができない子・シャイな子・何を考えているのかわからない子、などという評価をしがちですが、はたして本当にそうなのでしょうか?
反応がない理由は本当に様々です。中には、場面緘黙(ばめんかんもく)という、本人にはどうにもできない理由がある場合もあります。
家庭では話せるけれど、学校や職場では話すことが難しい。
あるシチュエーションになるとどうしても言葉が出てこない。
こうした、ある特定の対象人物や場面において発話が困難になることを場面緘黙と言います。そこで現れる症状は人それぞれですが、中には頷くことすらできないという人も。(動くことすらできなくなることを緘動(かんどう)と言います)
様々な要因が重なることで、場面緘黙症は発症するそうです。きっかけは、本人も「覚えていない」ということがほとんど。12~19歳が症状のピークと言われています。
場面緘黙の原因は様々ですが、たいへん深いところで怖れを抱くような経験をしている子どもたちも多く(無自覚な場合が多い)、無理に心の扉をこじあけられることは逆に恐怖心を煽るということを理解しておくことも必要です。
(※場面緘黙の参考)
しかし、ここで大切なのは、反応しない理由を私たちが解析することではありません。
肝心なのは、相手がどうかではなく自分はどうかということ
実際私たちは、相手の分析にほとんどの時間を費やして、肝心な「自分はどうするか」という点を置き去りにしがちです。「返事をしてもらえない」という被害者意識にはまらないこと。相手を加害者にしない、とも言い換えることができます。
とはいえ、自分はどうするかを選択する際には、自己卑下や自己攻撃にはまらないということもポイントとなります。
「声のかけ方がいけなかったのかな」
「つまらない話題を振っちゃったかな」
「今使った言葉、死語?」
「自分はどんな性格だと思われているのかな」
「うざいと思われていないかな」
などなど。
わかりやすく自意識にはまっている様子です。
自意識を超えて
自意識にはまった時は、自分の心を感じて(観じて)みてください。
どんな気持ちになりましたか?どんな思いが湧いてきましたか?
「反応が無いと不安になる」
「自分がバカにされた感じがする」
「自分の存在が軽んじられた気がする」
などなど。
湧いてきた思いを自覚すること。
そして、そもそも相手に反応してもらいたいという欲求はどこからくるのかということを深堀りしてみるといいでしょう。意外に実は、自分の癒しのポイントがそこにあったりします。こういう時に私は不安になっちゃうんだな、とか、自分の存在が否定されたみたいになっちゃうんだな、といったことがわかると、問題はその子との間のコミュニケーションの仕方でも、その子のパーソナリティでもなく、自分自身の心の中にあったのだということがわかるのです。その癒しポイントが解消されると、子どもたちとのコミュニケーションは格段に楽なものとなります。
そしてそれは、とりもなおさずその子どもたちにとっても、プレッシャーをかけて来ないニュートラルな大人との出会いとなり、しあわせな体験となりうるのです。
真実のコミュニケーションを、自分が実践する
反応が返ってこないという反応があった。それでもあなたはその子とコミュニケーションをとり続けますか?
取り続けるなら、働きかけましょう。こちらからの働きかけに、また無反応という反応があった。そうしたらまた働きかければいいのです。働きかけと無反応。その繰り返しでもいいんです。そして、もっと言ってしまえば、そのコミュニケーションをやめるという選択肢も、私たちにはあるのです。大切なのは、私たちがその子とコミュニケーションをとりたいのだという一番の目的を見失わないことにあります。
「返事を返してもらうこと」と「コミュニケーションをとること」は、イコールではありません。
相手の良好な反応を引き出そうとすることが、コミュニケーションではありません。
「ここへ来るまでの間にこんな人を目撃した」
「昨日、こんな出来事があった」
とか。
「今日見たテレビが「私は」面白かった」
「今、「私は」これにはまっている」
「今この瞬間に「私は」こう感じている」
とか。
究極を言ってしまえば、私たちが話せる真実は、ほぼほぼこんなものです。自分が目にしたこと、自分の頭の中と心の中にあること。
それを、まずは伝えること。こうしたコミュニケーションを私たち大人が実践していくことの方が、本人から何かを引き出したり本人の心の分析をしたりすることよりもずっとパワフルなコミュニケーションの仕方の提示となると思いませんか?
「この場は安全だよ」
「私はあなたを理解したいよ」
「でもそれはあなたのタイミングでいいんだよ」
そんな発信が、私たちの方からできたなら。最高にしあわせなコミュニケーションをとっていると、言っていいのではないでしょうか。
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いしづかみほ
(学習・療育のじゃ塾塾長/日本子ども虐待防止学会会員/イラストレーター)
「子どもたちが本来持っている才能を存分に発揮できるよう双方向で作る授業」と「彼らのありのままを理解する教育カウンセリング」を軸とした療育を実践しています。
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