
超えられない壁を感じる彼との恋愛、その壁の正体は? ~実は、多くの人がもつ【愛着障害】とは②
- 更新日:2019/08/03
- 公開日:2019/08/03
付き合って5年。付き合い始めた頃は仕事の相談にも親身になって乗ってくれたし、愛情表現もたくさんしてくれていた彼が、最近すごく素っ気ない。
彼の思うようにことが運ばないと、いきなり無言になる。
甘えようとすると「やめて」と言われる。
ふたりにとって肝心なことを話そうとすると「重い」と言われる。
「もう、私のことを愛していないの?」と不安になっているあなた。その彼氏、【愛着障害】かもしれません。
彼の機嫌を損ねることが怖いのは
「これを言ったら彼はどう思うだろう」
「こんな話題を出したら彼はどんな反応をするだろう」
彼の反応が怖くて、感じたことを率直に伝えたり意見を言うことができなかったり、自分の本当にしたい話を切り出すことができなかったりする。
彼の反応が怖いとまではいかなくても、彼と一緒にいる時間を楽しく過ごしたいと思うとつい、「今日はこの話題、避けておこうかな」ってなってしまう。
そんな経験、ありませんか?
あなたのその不安の原因は、彼との関係性というよりも、養育者との間に愛着が形成されなかったことによる【愛着障害】であるかもしれません、と、前回お話しました。
ふたりの関係に積極的になれない彼は、愛着障害?
そもそも恋愛をするってことは、お互いがふたりの関係性を保とうという欲求を持つから成立するわけですよね?
崖から落ちそうな彼の手を、あなたが握っているとします。
あなたがありったけの力を込めて彼の手を握っているのに、当の落っこちそうな本人があなたの手をしっかりと握り返さなかったとしたら?あなたに引き上げてもらうのをあてにして、ぷら~ん、ってただ、ぶら下がっているだけだったとしたら?
「しっかりと握り返さんかいこらぁあああああーーーーーー!!!!」
と、言いたくなりませんか?
「落っこちるぞお前―――!死にたいんかこらぁああああああーーーーーー!!!!」
と、怒りがわいてきませんか?
相手にやる気がないってことは、あなたがふたり分の力を発揮しないと彼の命が救えないわけです。
というか、あなたの命も危ないわけです。
落っこちますよ、崖。
ふたりもろともに崖から落ちそうなのに、あなたの手を握り返してくれないその彼氏、本当にふたりの関係を維持しようとしているって、言えますか?
今、直視しましょう。
彼がその手を握り返せないのは、彼も【愛着障害】だからではありませんか?

「どんな自分でも大丈夫」ありのままでいられる安全基地とは
愛着は、適切な養育がなされれば自然と形成されていくものです。「泣く・近づく・手に触れたものを握りしめる」などの自分のはたらきかけに対して、自分以外のものが必ず応えてくれ、心地よい感覚を与えてくれるという経験から、自己の「万能感」と「世界への信頼」が培われていきます。
この「世界」とは、0~3歳くらいまでは、一番身近で赤ちゃんのお世話をする人のこと。最初期の養育者との間に健全に愛着が形成されれば、その後はその養育者を「安全基地」として、身近な他の存在へと愛着形成のチャレンジをしていくようになります。
RPGでいうと、宿屋やパワースポットなどの、HPもMPも全回復できるポイントが、安全基地にあたります。自身のレベルアップや情報収集のために、外の世界へ幾度となく繰り出す主人公とその仲間たち。HPが尽きる前に、安全基地に戻り、全回復をし、また外の世界へのチャレンジを繰り返しますよね。
けれど、この安全基地が正しく機能していなかったとしたら、どうでしょう?
泊まった宿屋が魔物の巣だった、とか、一泊すると毒に侵されるしくみになっていた、みたいな感じです。
やばいですよね。
信じてここで眠った自分がバカだった、けど、生き延びるためには戦うしかない、ってなって、そりゃもういろいろ試行錯誤するわけです。
宿屋=養育者だと置き換えると一目瞭然。養育者が安全基地の役割を果たしてくれなかった場合、子どもは自ら、さまざまな形で心の安全を確保しようとします。なんとかして、自分の心の均衡を保ち、生きていく術を身につけるわけです。つまり、安全基地を自ら確保する、という行動に出るのです。
では、具体的にはどのようにしてその安全基地を確保するのでしょうか。
環境設定と、自己設定の両面から解析してみましょう。

安全ではない安全基地~環境設定
環境設定は、要するに自分が育ってきた家庭と同じような環境、人間関係を作るということ。
同じ様なルールの中であれば、振る舞い方もなんとなくわかっているから安心。身体的暴力や言葉の暴力、無関心などの方法で養育者からの強いコントロールがなされていたとしても、知っているパターン、見たことのある景色だからと、「偽の安心感」を覚えてしまうのです。それがたとえ、慢性的に子どもを殴る蹴るといった、明らかに暴力とわかるような場合であっても「自分が育った環境にあったルールだから、それはしつけの一環です」といったような感覚。そんな環境でも育ってこられた自分を肯定したいという意識もはたらくので、無自覚に、現在も同じような環境設定を生み出してしまうのです。
その意識の底には、養育者のあなたへの対応がどんなに不適切であったとしても、愛ゆえにそうしているのだ、と理解したい自分がいます。
ここで問題なのは、その養育者の行動の裏に愛があるかないかではありません。
仮に愛だったとしても、その方法があなたを傷つけるものだったとしたなら、それは適切な養育とは言えませんよね。
愛ゆえに、ののしる。
愛ゆえに、殴る。
愛ゆえに、無視する。
どうでしょう?
この宿屋、HP、MP、回復しますか?

安全ではない安全基地~キャラ設定
一方、自己キャラ設定は、今まで対人関係で成功したキャラでどんな相手との間でも関係を構築しようとする方法のこと。
わかりやすい例からいくと、
*なるべく親しみやすいキャラクターを演じてかわいがられるようにする。
*超攻撃型の自分を作り出して誰にも何にも言わせない暴君になる。
*完全なる弱者として、いつも誰かに助けてもらおうとする。
これらのキャラ作りは、相手の反応を想像しやすいというのが利点。
では、次の例はどうでしょう。
*有能さを売りにしてみんなの役に立つ。
*人から何かを指摘される前に、そもそも自分は指摘されて当然の人間なんですから痛くもかゆくもありませんという自虐を常とする。
*どんな人とでもバランスよく付き合うことができ、常に輪の中心人物になるように振る舞う。
えー?!それ、キャラ設定なの?
と、言いたくなりますよね。全員が、そうというわけではありません。それがキャラ設定なのかどうかは、その人と親密になればわかります。
親密感が増す、ということは、演じることが難しくなる、ということです。
いくら慣れたパターンの板についたキャラとはいえ、四六時中一緒にいる相手との間でそれを演じ続けることを、想像してみてください。安全基地確保のために作り上げたキャラと、正真正銘の自分らしい自分との間に乖離があればあるほど、演じていることが苦しくなるわけです。キャラ崩壊が起きないようにするには、相手との間に絶妙な距離感を保ち続けるか、姿をくらましてまた別のコミュニティで生きていくかしかなくなってしまうのです。

私のこの性格は絶対に設定したキャラなんかじゃなかいからーーーーー。
彼だって、そんなはずないんだからーーーー。
そう思ったあなた。
では、なぜ今あなたは、彼との関係においてプチがまんを繰り返してしまうのでしょう。
彼はなぜ、ふたりの親密感を深めることに積極的になってくれないのでしょう。
今までの自分にとっての当たり前が引き起こしている、このちょっとした不具合を、「あれ?どうなのかな」って、一度立ち止まって不思議に思ってみる。それが、自分自身をしあわせにする最初の一歩になるのです。
人生では、RPGのように自分や仲間の命を教会で生き返られることはできません。
そうなる前に、気づき、癒しの道を選択しないとなのです。
無自覚に自身のキャラクター設定をし、ここから発進すればまず間違いないという安全基地を作り上げてしまうのは、その本人のパーソナリティの問題でも、努力不足の問題でもありません。
その原因は、【愛着障害】にあるのかもしれません。

彼の愛着の回復のためにできること
「愛着のシステムは非常に強力である」
そのボウルビィの言葉通り、回復のしくみもまた、人には備わっています。
親しさが増すと高圧的な態度に出る彼。そんな彼は、養育者との関係で「万能感」が得られなかったパターン。
親しさが増すと被害者ぶってあなたの言動を制限しようとしたり、何かをしてもらおうとしたりする彼。そんな彼は、養育者との関係で「世界への信頼」が得られなかったパターン。
いずれにせよ、相手をコントロールすることにより、間違った形で「万能感」や「世界への信頼」を得ようとしてしまっているのです。
両方に共通するのは、親密度を増してしまうと最終的には自分が傷つくと思っているので、それ以上間合いを詰めないように立ち振る舞う、ということ。
間合いを詰めると怖いんです。自分と養育者との関係の中で刷り込まれた体験から、「親密になったら、いつ自分がコントロールされる側になるかわからない。暴力を振るわれたり、見捨てられたりといった災難がいつ降りかかってくるかわからない」という誤解をし続けているのです。
間違った安全基地を何度設定しても、あなたの中に真の愛着はいつまでたっても形成されません。
何度愛着形成を試みても失敗する、というエンドレス再生を止めるには、ちゃんとHPもMPも全回復してくれる本当の宿屋を見つける必要があるのです。
愛着障害の克服のための第一歩は、間違った安全基地設定をしている自分、もしくは相手に気づくこと。そして、「その安全基地の設定では違うのなら、本当の安全基地はどこ?」と、疑問を持つこと。「真実の愛着を今、ここから形成する」と心に決めること。ここからすべてが始まります。
次回、「愛着が傷つく養育環境とは、どんなもの?」虐待やネグレクトの実際を取り上げながら、愛着障害がどこかの誰かの話ではなく、わりとどんな家庭にも起こっていることなんですよってことを、お伝えしていきます。
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「実は、多くの人がもつ【愛着障害】とは?」バックナンバー
#4 相手の本心がわからなくてあれこれ考えすぎてしまう癖、解消したい!
参考資料
*平成28年度療育セミナー(2016.7.9)
「気になる幼児の理解と支援」~発達と愛着の二つの視点から/筑波大学 宮本信也氏
*平成28年千葉県柏市要保護児童対策地域協議会研修会(2016.11.2)
「児童虐待の理解と対応」/(協)千葉県若人自立支援機構 水鳥川洋子氏
photo by 櫻井理惠
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いしづかみほ
(学習・療育のじゃ塾塾長/日本子ども虐待防止学会会員/イラストレーター)
「子どもたちが本来持っている才能を存分に発揮できるよう双方向で作る授業」と「彼らのありのままを理解する教育カウンセリング」を軸とした療育を実践しています。
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