
ツライ恋愛から離れられないホントの理由とは? ~実は、多くの人がもつ【愛着障害】とは ①
- 更新日:2019/07/04
- 公開日:2019/07/04
彼女である自分に対して暴力をふるう、罵声を浴びせる彼氏と別れない理由を「私を愛しているからそうしてしまう」と自分の脳内で変換しているあなたへ。
もしくは、彼女である自分を大切にしてくれないし、仕方なくお前と付き合ってやっているといった態度をとる彼氏と別れない理由を「そんな彼を理解できるのは私だけだと思う」と自分の脳内で変換しているあなたへ。
このコラムを贈ります。
気づかないようにする自分に気づく、それが第一歩
時に、事実を捻じ曲げて解釈したり、あたかもそれがなかったことのように振る舞ったり。無自覚すぎて、よもや自分がそんなことをしているなんて納得したくなさ過ぎる事実。これ、ケガをした時によくある「バックリあいた傷口を直視すると内臓まで見えてしまいそう。だから目を開けて見ることができない」という、あれと同じ心のしくみです。
一見、仕事の場面ではなんでもはっきり意見したり言いづらいことも表現できたりしている人が、彼氏との間では自分に相当な我慢を強いていたり、家族の中のバランスを保つために自分の気持ちは後回しにしていたりといったことは珍しいことではありません。
自分が傷つくことはいいけれど、愛する人が傷つくことや、大切な友人が苦しむのを見るのは耐えられない……。そんな思考が当たり前になっているあなた。全員のしあわせのためならというその「全員」に、自分を入れないのはなぜですか。それをどこか、美徳とすら思っていませんか。
そんなあなたにこう言いたい。
こらーーーーーー!
目を覚ませーーーーー!
覚まさないと、死ぬぞーーーーーーーー!!!(雪山設定)

それはあなたの性格ではなく、愛着障害のせい
なぜ、こんな思考にハマってしまうのか。
本当はあなたの気が弱いからですか?
それともすごく鈍感だからですか?
心底お人好しだからですか?
どんな困難も乗り越えられる、強靭な精神力を持っているからですか?
否!!
否です!
雪山で眠るように死ぬ前に、目を覚ましましょう。
「自分自身の心が傷つかないように」世界観をねじまげてしまう癖。それは【愛着障害】が原因かもしれません。
愛着(=アタッチメント)とは
ここで言う愛着とは、特別な感情の結びつきのこと。情緒的結びつきとも言います。要するに、人と人とが親密な感情で結びつき、互いを思いやり信じる心の営みのことです。
愛着(=アタッチメント)理論をイギリスの精神分析家であるジョン・ボウルビィが提唱したのは1969年のこと。日本でも一般に知られるようになったのは、子どもの虐待防止や貧困が社会的な問題としてクローズアップされてきた1990年代後半からのことです。
乳児の「泣く・微笑む・吸う・しがみつく」といった行動に対して、養育者(主にここでは母親)が「どうしたの?」と反応する。その適切な対応が、健全な愛着を形成するとボウルビィは唱えました。
赤ちゃんにとってみれば、自分を保護し、不安や恐怖、不快感を取り除いてくれる相手に対する親密感や安心感が生まれるのは当たり前のこと。この当たり前の安心な居場所の確保が、愛着の形成に大きな影響を及ぼすというのです。

鍵は「万能感」と「世界への信頼」
赤ちゃん・母親・おむつの関係を例にとると……
赤ちゃん、おむつが濡れて泣く。すると母親はおむつを交換する。
当たり前のこの行動に、愛着形成のヒントが隠されています。
赤ちゃん:おむつが濡れて「不快」→泣く
母親:泣き声を聞く→おむつを交換する
赤ちゃん:「不快」→「快」の状態になる
ここが、重要。
赤ちゃんは、「泣く」ことで不快を訴えました。「泣く」、ただそれをしただけで、「不快」が「快」へと変化したわけです。
すごくないですか?泣いただけで世界が変化する。
この体験から赤ちゃんが身につけることのひとつが、「万能感」。
「私はなんでもできる」「世界を変えることができる」「やればできる」という感覚です。
そしてもうひとつは、「世界への信頼」。
「なんだかわからないけれど、世界は私の要求に応えてくれるものだ」「自分が発信すれば世界は必ず応答してくれる」「世界は快い状態を自分に与えてくれる」という感覚です。

愛着が傷つく時
これが、適切な対応をしなかった場合にどうなるか考えてみましょう。
赤ちゃん:おむつが濡れて「不快」→泣く
母親:泣き声を聞く→「なんでこの忙しい時に!」と罵声を浴びせながらおむつを交換する
赤ちゃん:「不快」→お尻は「快」気分は「不快」
この赤ちゃんの中にはどのような感覚が根付くでしょうか。
「不快」を訴えたらなんだか別の「不快」が出現した。
やばくないですか、この世界。「自分の発信に対して世界は厳しい対応をする」「発信すると、予測不可能な不快な出来事が起こるかもしれない」「世界は不快な状態を自分に与える」という、「世界への不信感」が刷り込まれていくことになります。
別のケースを見てみましょう。
赤ちゃん:おむつが濡れて「不快」→泣く
母親:泣き声を聞く→無視
赤ちゃん:「不快」→「一層不快」の状態になる
こうなると赤ちゃんは「不快」を訴えたが世界はそれに無反応である、という体験を積むことになります。そうなると「万能感」などが根付くはずもなく、「自分は無力だ」「何もできない」「がんばっても無駄」という感覚が根付いてしまうことになります。
ボウルビィによれば、「愛着のシステムはとても強力」なのだそうです。
赤ちゃんたちは、親たちが暴力をふるい、罵声を浴びせようとも、まったくの無反応であろうとも、何度も何度も、愛着を形成するための発信をし続けます。しかし、この暴力や無反応が長期にわたり繰り返されることで、その愛着は傷ついていくのです。
自分を信じ切ることができない。世界を信じ切ることもできない。
こうして愛着が傷ついた状態が、愛着障害なのです。
えー、私、そんなに深刻な状態じゃないと思う。
今、そう思ったあなた。
目を覚ませーーーーーー!!!
家庭というものは、非常にプライベートな空間です。その家独特のルールであったり序列であったりが、どんな家庭にも存在しているもの。そうした、「言葉にはなっていないけれども家族みんなが守っている決まり」=「不文律」的なものは、他の家庭と比べてみたこともない、という人たちが少なくありません。ゆえに、自分の状況が深刻か深刻でないかが、客観的に判断できづらいのです。

性格のせいでも努力不足のせいでもないという理解
自分のことも世界のことも信じ切ることができない根っこには、自分の努力やがんばりではどうにもできなかった理由があるということを理解してあげてください。あなた自身のために。
心が傷つくことを極度に恐れてしまうその理由は、あなたのパーソナリティの問題でも、努力不足が原因でもないのです。
「愛着のシステムはとても強力である」
このボウルビィの言葉通り、私たちは無自覚に、愛着形成のための努力をあり得ないほどしてきています。この努力が報われなかった時に、愛着は傷つき、本来愛着を形成するために使うべき力を、いつの間にか自分自身の痛みの核心から離れることに使うようになってしまうのです。
癒しの第一歩は、愛着障害であるという自分を認めること。
雪山で命を失う前に、目を覚ましましょ。
NEXT⇒超えられない壁を感じる彼との恋愛、その壁の正体は? ~実は、多くの人がもつ【愛着障害】とは②
「実は、多くの人がもつ【愛着障害】とは?」バックナンバー
#4 相手の本心がわからなくてあれこれ考えすぎてしまう癖、解消したい!
参考資料
*平成28年度療育セミナー(2016.7.9)
「気になる幼児の理解と支援」~発達と愛着の二つの視点から/筑波大学 宮本信也氏
*平成28年千葉県柏市要保護児童対策地域協議会研修会(2016.11.2)
「児童虐待の理解と対応」/(協)千葉県若人自立支援機構 水鳥川洋子氏
photo by 櫻井理惠
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いしづかみほ
(学習・療育のじゃ塾塾長/日本子ども虐待防止学会会員/イラストレーター)
「子どもたちが本来持っている才能を存分に発揮できるよう双方向で作る授業」と「彼らのありのままを理解する教育カウンセリング」を軸とした療育を実践しています。
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