
子供の貧乏ゆすり、しつけで何とかできるもの?
- 更新日:2020/12/17
- 公開日:2017/11/15
貧乏ゆすり、というそもそもの名前もいけないのかもしれませんが、とにかく、「貧乏ゆすり」を目の前でされると気が散るしイライラする。けれど、これしきのことでイラつく自分もなんだか小さい気がして、「本人の癖だから仕方ない」と必死に自分に言い聞かせ、がまんをする。
子供から大人まで、悩ましいこの貧乏ゆすり。不安が強くなったりすると出るとか、血流が悪いと出やすいとか、巷では様々に論じられていますが……。
今回は、そんな貧乏ゆすりを、感覚統合の視点から見たお話です。
CASE14 子供の貧乏ゆすり、しつけで何とかできるもの?

「そんなに貧乏ゆすりしたらうちが貧乏になっちゃう気がするから、ほんと、やめて!!! 」
何の根拠もありませんが、つい、息子にそう言ってしまった私(笑)
言った瞬間はおさまる貧乏ゆすりですが、しばらくするとまたカタカタカタカタ……。これは一体、どうしたことか。遺伝? 何か不安があるの? なにをどうしたらこれがおさまるのかがわからなくて、とりあえずしつけだな、という安直な結論を出した私は、息子が貧乏ゆすりを始めるたびに「やめて」「落ち着いて」「家ではいいけど、外では気をつけよう」と、声をかけていました。
「覚醒のための刺激である」という理解
じっと座っている時に限って、子供たちの貧乏ゆすりが気になる、ということはありませんか?
この貧乏ゆすりは、感覚統合という、脳に入った刺激情報の交通整理機能の視点からすると、「覚醒を維持しておくための刺激の補給である」と見てあげることができます。
わかりやすく言いかえると、「放っておくとぼ~っとしたり眠ったりしてしまうので、起きている状態を維持するために、身体をゆすったりして刺激を自分で作り出し、脳を起きている状態にさせている」ということです。(*1)
例えば「多動」と呼ばれる子供たち。
授業中に落ち着いて座っていることができず、立ち上がって歩き回ったり、貧乏ゆすりをしたり、身体を前後左右にゆらゆら揺らして椅子をガタガタいわせてしまったり。
彼らは覚醒を維持するために、自分自身で刺激を「取りに行っている」のです。(*2)
「静かにして落ち着いて座っていなさい」と指導するのは、極端に言えば「ぼ~っとしていていいですよ」「寝ていていいですよ」と言っているようなものです。
必要としている感覚刺激を与える
こうした子供たちには、必要としている感覚刺激を与えてあげればよいのです。
そうすることにより覚醒状態が保たれ、自分自身で刺激を作り出す行動を取らなくてもよくなる。
また、同じ程度の刺激を与え続けるよりも、オンとオフをはっきりとさせた方が、より強い刺激として脳は認識をします。授業中であれば、座った状態で先生の話を見たり聞いたりするよりも、手での作業を増やしたり、先生のお手伝いなどで立ったり座ったりする機会を増やしたりすることで覚醒状態が保たれます。病院の待合室や電車の中など、全身を動かすことが難しい場面では、シールを貼る絵本や指先を使うおもちゃなどで手指を動かす工夫をするといいでしょう。(*3)
「覚醒状態の維持」が難しい子たちには、感覚刺激を普段からしっかりと入れることが有効です。
・そっと抱っこするだけでなくて、時々ぎゅうっと抱きしめる
・布団をかけて横になっている足の上から、少し強めに足を圧迫してみる など
どのくらいの強さが心地よいのか、本人とコミュニケーションを取りながらやってみるとよいでしょう。
家族は理解していても……
さて、この貧乏ゆすり。電車の中や病院の待合室など、他人がたくさんいて静かにしていて欲しい時にされてしまうという経験をされた方も、少なくないのではないでしょうか。
先日、保護者面談に来られたはにやくんのママからの相談はまさにこの話題について。病院の待合室で、いつものように貧乏ゆすりが始まってしまったはにやくん。ママはあれこれと手を尽くしていたのですが、お隣に座っていたおじさんから「こんなに落ち着きがなかったら、我が家ではげんこつだよ」と、注意を受けてしまったそうです。
家庭内だけで理解していればなんとかなる、というわけにはいかない。どうしても、外で他人が関わる状況になった時に、親は何を選択していくかということが問われます。
他者から注意を受けた時、それは、チャンス
はにやくんのママのように、他の人から注意を受けてしまった時、それは、ママ自身の心を調え、互いの理解を深めるチャンス。
他人から注意を受けると、過剰に謝る被害者になってしまったり、逆に、自分の正当性を主張して相手を糾弾する加害者になってしまったりと、ちょっとアンバランスになりがちな私たち。「必要な分だけ謝る」ということができるようになると、とても楽になります。
そのためのポイントはふたつ。
ひとつは、「他者からの注意は、あなたの人格否定ではない」ということ。
我が子の行動ひとつで、あなたの子育てのすべてがダメだとか、しつけのできない親だとかいった評価を受けるわけではありません。そもそも、子育ては評価されるとかいう質のものではありませんし。
注意を受けたとしても、その行動や態度の修正が必要とされているだけです。
そしてもうひとつは、「自分の心を観じてみる」ということ。
子供たちが、大人のイライラを誘発する行動を取った時、「もし我が子のこの行動が私のためだとしたら、私の心の何を吐き出させてくれているんだろう?」と、自分に問いかけてみる。
「貧乏ゆすりに対してだけじゃなく、待ち時間が長いことにも、ここのところ忙しいことにも、時間がなくてやりたいことができなかったことにも……」といった具合に、自分のイライラの思いつく限りの原因を自覚してみる。
そうすると意外に、子供に対してのイライラ以外に蓄積されていたイライラまで、この出来事に上乗せしているということに気づくかも。感情は、封じ込めずにしっかりと「ある」ことを自覚し、味わい切ることが大切です。
このふたつができるようになってくると、「申し訳なかったな」と感じた分だけ謝れるようになります。人格否定と受け取ってしまった分の「申し訳ない」であったり、別のことに対する隠し持っていたイライラの分の「うしろめたさ」であったりといった諸々の余分な成分がこの「謝る」という行為から無くなると、相手とのやり取りもスムーズにすすみ、コミュニケーションが生まれ、より楽に理解し合える。
子供の与えてくれるこうした機会は、自分自身のコミュニケーションのパターンを修正し転換するチャンス。そんな風にとらえてみてください。だって、貧乏ゆすり、そんなに悪いことではないでしょう?
(*1)、(*2)、(*3)…感覚統合療法入門講習会資料/日本感覚統合学会2017.06開催
バックナンバー
「あっち」や「こっち」では動けない!固まるわが子を動かす方法
子どもに「なんでわかってくれないの? 」って思ってませんか?
どうしてそんなに気が散るの?〜集中力がないように見える子たち
発達症の子に、キレてもいいですか?~子どもにイラっとしてしまったら
実は、多くの人がもつ【愛着障害】
④ 相手の本心がわからなくてあれこれ考えすぎてしまう癖、解消したい!
「まなまりんManaMarine」とは?
発達療育イベントを各地で開催。感覚統合と愛着形成を目的としたメソッドを、運動と遊びを通してお伝えしていきます!
Mana Marineの運動療育で育てていくのは、この、脳の交通整理に必要な5つの感覚(視覚・聴覚・触覚・固有覚・前庭覚)。同時に、ボウルビィの愛着理論を元に、愛着の形成に必要な要素も取り入れ、独自のメソッドで親子の関わりを支え、脳の発達のみならず心の成長もサポートします。
-
-
いしづかみほ
(学習・療育のじゃ塾塾長/日本子ども虐待防止学会会員/イラストレーター)
「子どもたちが本来持っている才能を存分に発揮できるよう双方向で作る授業」と「彼らのありのままを理解する教育カウンセリング」を軸とした療育を実践しています。
この記事がいいと思ったら
いいね!しよう
Related関連記事
Pick Up編集部ピックアップ
Rankingランキング
-
1
ライフ
「シングルマザー」や「貯金ゼロ」で子供を産んでも大丈夫?
-
2
ライフ
パパイヤ期はいつまで?ママがフォローしたほうがいい理由【#55】
-
3
ライフ
子どもに「なんでわかってくれないの? 」って思ってませんか?
-
4
ライフ
不妊治療の医療費控除は利用しなくちゃ損!お金が戻ってくるだけじゃない
-
5
ライフ
『3人産んだ今だから言えること』我が家の少子化対策#1
-
6
ライフ
誰でもいつでもできる!自己肯定感を一瞬で上げる24の方法
-
7
ライフ
「逃げ恥」みくりが無償の家事を「好きの搾取」と言ったわけ
-
8
ライフ
「子供が欲しい」と積極的に思えない私はおかしい?【連載】なんで子供が欲し
-
9
ライフ
「レディースデーって男性差別じゃない?」って聞かれたらどう答える?
-
10
ライフ
「子どもが夜泣きしても夫は起きない」理由って?【#53】