
「血のつながりのない子ども」はかわいそう?【特別養子縁組①】#12
- 更新日:2019/05/15
- 公開日:2017/08/26

様々な家族の形、子育ての形を通して、子どもを産むこと、育てることを考える本連載も12回目を迎えました。
今回は、養子縁組の支援を行っている、一般社団法人ベビーライフ代表、篠塚さんにインタビューを行いました。
ベビーライフとは
赤ちゃんを産んでも育てられない事情のある方への相談事業、および特別養子縁組の支援を行っている一般社団法人。民間団体である強みを活かし、養子を受け入れた後のケアにも力を入れている。
特別養子縁組とは
実父母の養育が困難な6歳未満の子どもを、養父母が引き取り、法的に親子関係になる制度のこと。その際、実父母との法的な親子関係は解消される。
子どもの福祉のための、特別養子縁組

―まずは日本の養子縁組の実情についておうかがいできますか?
はい。ほんの30年前まで、特別養子縁組という制度は法律上はなかったんです。
ですが、1973年の菊田医師事件をきっかけに法律が改正され、1987年に特別養子縁組が民法に組み込まれました。
菊田医師事件というは、通称「赤ちゃんあっせん事件」と呼ばれている事件です。当時、医師である菊田氏が、出生証明書を個人的に偽造し、子どもを育てられない家庭の子を、育てられる家庭の子に書き換えていたんです。
結局、有罪判決が下りましたが、この事件をきっかけに社会的に養護が必要な子どもたちの存在が明るみに出ることになり、法律改正への後押しとなったのです。
特別養子縁組が法的に認められてからは、まだ30年弱しかたっていません。また、民法上、特別養子縁組という制度はありましたが、実は今まで、日本の養子縁組について、専門に扱う法律はなかったんです。
去年ようやく、あっせん事業者の規制や健全な事業運営などについて盛り込んだ、通称「養子縁組あっせん法」ができたところです。
法律の整備はごく最近のことですが、古くは江戸時代から、家を継ぐための普通養子縁組は実質的には行われていました。
―特別養子縁組と普通養子縁組はどう違うのですか?
特別養子縁組の場合は、実父母との法的関係は完全になくなりますが、普通養子縁組の場合は、養父母、実父母とも法的関係は続きます。
他にも細かい違いはいくつかありますが、一番大きな点としては、普通養子縁組は家制度を引き継ぐための制度という側面が強く、特別養子縁組は子どものための制度である、ということでしょうか。
家を継ぐ男の子が欲しいから、といった理由ではなく、特別養子縁組は、子どもの福祉のためにできた養子縁組なのです。
日本は不景気だといっても、まだまだ豊かな国だという認識がある方が大半だと思いますので「育てられないことが信じられない」という方が多いのも理解できます。
ですが、実際には子どもの貧困は大きな問題です。
「貧しい=不幸」ではありませんが、食べ物がないと健やかな成長はできませんよね。そういった貧困に陥っている子どもたちの現状に対する、ひとつの解決策が養子縁組だと思います。もちろん養子縁組だけが解決策になるわけではありません。子どもたちの健康、安全の保障について国レベルで考えていく必要があると思います。
日本は「血のつながり」を重視する?

―海外では、セレブなどが養子をたくさん育てるなど、養子を育てることへのハードルが低い気がしますが、日本では養子はあまり浸透していません。それはなぜでしょうか?
たしかに、北米やヨーロッパなどに比べると、日本は養子についての認知度も文化的な受け入れ度も低いと言えると思います。
ひとつには、宗教的バックグラウンドが関係しているのではないかと思います。北米やヨーロッパはキリスト教がメインですよね。聖書の中にも「他人の子どもでも、すべては神の子であり、繋がっている」という趣旨が記載されていたりするので、養子縁組が根付きやすい風土があるのだと思います。
北米やヨーロッパでは、血縁があるかないかは、大きな問題ではないと考えている人が多いという印象ですね。
養父母になる方は、不妊のため養子を授かる方もいらっしゃいますが、あえて子どもを作らずに、「家族を必要としている子どもたちのために自分たちの家庭を提供しよう」と考える方もいらっしゃいます。
こういった考えは日本だとあまり聞きませんが、海外では割と多いですね。
日本は、実際に産むことや、血縁に価値を感じる文化があると思います。それゆえ、「血のつながっていない親に育てられる子どもはかわいそう」と考える方も多いのでしょう。
たとえば、東日本大震災で、親をなくした子どもたちを、血縁者が養子にする、ということが多かったですよね。諸外国からすると、その光景は不思議に見えるらしいんです。アメリカなどでは、他国の出来事であっても震災孤児に対しては、血縁関係なく、「自分が育てる」と名乗りを挙げる人が殺到するのが通例ですが、日本ではそういった文化はありませんよね。
―アメリカでは養子制度が浸透しているんですね。
そうですね。アメリカでは、国内だけで年間約11万人の子どもの養子縁組が行われています(2014年時点)。その中で、約7万人が血縁を超えて養子縁組をしています。更に、年間約11万人に加えて約6千人が国際養子縁組といって、海外から養子を授かっているんです。
養父母になりたいという希望者が多いため、国内で賄えずに、海外の子どもと養子縁組をする事例が多数みられるのです。
また、アメリカには一時的な保護施設はあるものの日本でいうところの児童養護施設は存在しません。子どもたちは家庭で育てられることが前提だからです。
今年から育休手当が!進む財政支援

―日本は児童養護施設が多いけれど、養子縁組に対する国の補助はないですよね。児童養護施設で育てられるより、養子縁組して家庭で育てられる方が子どもたちにとって良い環境になり得ると思うのですが、なぜなのでしょうか?
日本としても、特別養子縁組を増やしていく、という流れはあります。
ですが、まだ制度が追い付いていないというのが現状です。
>アメリカでは養子を迎えると、所得税が控除されるという財政支援があり、だいたい150~160万円程度返ってきます。アメリカでは民間の団体を通して養子縁組をするケースが多いのですが、その場合、費用が200万円程度かかることがあります。それでも財政支援があるため、実質の負担は40万程度で済むんです。
日本ではまだそこまで進んでいませんが、育児休業に関しては、今年から手当をもらえるようになりました。特別養子縁組の場合6カ月間は監護養育期間といって、上手くいっているかどうか家庭裁判所が認定するための期間があるんですね。
これまでだと、その間は育休も取れませんでしたし、仮に休暇をとったとしても無給であり、職場復帰が難しくなるパターンもありました。
育休をとれないことが、養子縁組が進まなかった一因でもあったんです。ですから、この度、雇用保険から育休手当が出ることとなったことは、大きな一歩だと感じています。
私達ベビーライフは、日本でもアメリカのように、所得税の減額または、控除ができるようになることを願い、提言などを随所で行っていく予定です。
財政支援をきっかけに、お金のある無しにかかわらず養子縁組が検討できる風土が築ければと思っています。
日本ではまだ特別養子縁組制度の歴史も浅く、社会的な認知度・受け入れ度も低いと語る篠塚さん。次回は、篠塚さんが養子縁組を支援することになったきっかけや、実際に養子縁組をした家族は幸せになっているのか、についておうかがいします。
▼ベビーライフHP
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