
のじゃ塾が幼児から大人まで通える療育塾になったのには、私の息子・そうたのユニークさとその成長が大きく影響しています。
育児書に書かれている発達の様子とどうも違う我が子の現状。いつの間にか育児書は開かなくなりました。
けれど、他の子を見ていると「なんかどうも、うちの子って違う」と思ってしまう。
じゃあ、どうしたらいいの?
答えが欲しかったのは、私自身でした。
そんな折、幼稚園の同級生ママたちから「小学校入学準備のスクールを開いて欲しい」と言われ、始まったのがのじゃ塾です。
今回は、「なんかどっかずれている? 」と思われがちな息子・そうたの小学校3年生の頃のエピソードです。
Case2 その答え、ずれている? ~お互いを理解するための一歩

そうたくん、なんにも間違っていなかったですよね。
「将来の夢はありますか? 」って聞かれたら「あります(はい)」か「ありません(いいえ)」で答えるのがたしかに適当です。とはいえ、そうたくんはあの一瞬の間に何を考えどうしてこう答えたのか、知りたいので聞いてみました。
そうたくん、こう答えました。
「『ありますか? 』って聞かれたから、正しく答えるなら、『はい』か『いいえ』になっちゃう。でもなんとなく、将来の夢がなんなのかも聞かれているような気がする。でもやっぱり、『ありますか? 』ってしか聞かれていないから『はい』って答えた」って。
わぁああ~…誠実…。
わぁああ~…感動…。
質問の回答としての正確性をとるか、相手の質問の意図が汲み取れたことを表現するべきか…。
私も小学校の時にこの手の質問に悩む子だったので、『この葛藤、わかるなぁ』と思いました。私の場合は結局、「はい」と書いた後に「私の夢は…」とか補足をしていましたが。
意外に多い、こうした行き違い
先生の側に視点を移してみます。
この先生は「将来の夢はありますか」という質問で、その具体的内容まで引き出せると思っていた。けれど、そうたくんにそれは通用しなかった。このままスルーしていたら、先生にとっては相手側が理解できていない出来事としてとらえられたままですね。
こういったこと、私たちの生活の中にもよくあります。
「うるさい! 」
って子どもを叱ったり
「危ない! 」
って子どもの行動を制止したり。
子どもがそれでも行動を改めない時に「なんでわかってくれないの? 」「言われてもすぐに忘れちゃうんだから」なんて思ったりしませんか? 私は思っていました。何度注意しても変わらない。そんなことを繰り返して、ある日ふと気づいたのです。
「もしかして、これだけ言ってもわからないってことは、私の方がわかるように伝えられていないのかも?! 」と!
先程の「うるさい」「危ない」ですが、実はこの言葉、その「状態」を表現しているだけで指示になってはいないのです。
「え~、そうやって言えば、静かにしてよってことだって、ふつうわかるでしょう? 」
と言いたくなるところですが、
大人「うるさい! 」→子の心「私はうるさいんだな」
大人「危ない! 」→子の心「私はあぶないんだな」
極端に言うとこんな感じ。文字通りに受け取っている、ということなんです。
「伝わらない」ではなくて「伝えきれていない」
本当に伝えたいのは「うるさい」でも「危ない」でもなく、「もうちょっと静かな声で話して」や「横断歩道を渡る時は周りをよく見て」ということではありませんか?
「ちょっと」や「静か」ですら、個人個人の基準は違うもの。
「その子には、どう伝わっているのかな? 」「どんなことを感じたのかな? 」「どうしてこの答えが返ってきたのだろう? 」と、相手の心の状況に自分の心を寄せてみる。
そして、「どのくらい」ということを、具体的に伝える工夫をする。
このひと手間をかけるだけで、格段にコミュニケーションが楽になります。
そうたくんのエピソードで言うならば、もし「具体的な将来の夢」を聞き出したいのなら、欲しい答えが確実に返ってくる質問の投げかけをすればいい。「将来の夢はありますか。それは何ですか(なんの職業ですか。どんな人になることですか等)」と書き方を変えるってことです。な~んだ、簡単。
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幼児から大人まで通える療育塾。
発達症、発達症のボーダー、学校や家庭での問題行動全般、不登校、拒食症、統合失調、ダウン症など、子どもたちに同じケースはひとつとしてありません。 自宅の一室で、「語らい」や「遊び」「学び」の中から発見される子どもたちの心の声を聴きながら、ひとりひとりに、オーダーメイドな授業、教育カウンセリングを実践しています。また、のじゃ塾の療育メソッドをもとに、感覚統合を促進させる運動療育チーム「まなまりんManaMarine」を発足。
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いしづかみほ
(学習・療育のじゃ塾塾長/日本子ども虐待防止学会会員/イラストレーター)
「子どもたちが本来持っている才能を存分に発揮できるよう双方向で作る授業」と「彼らのありのままを理解する教育カウンセリング」を軸とした療育を実践しています。