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「付き合うまで性行為はしない方がいい」は純潔教育の名残?

  • 更新日:2019/10/25

「付き合う前に、体の関係を持ったら、軽い女だと思われます」

「恋人になる前にセックスしたら、セフレ認定されて、本命にはなれないからダメ!」

こういった、恋愛how to記事、よく目にしますよね。


一般的に、「付き合う前に性行為をすること」は女性にとって損だという認識があるように思います。こういった価値観は現代特有のものです。


戦後すぐの頃は、「付き合う前」ではなく、「結婚する前」に性行為をすることが女性にとって損だと言われていました。


今回は、『セクシュアリティの戦後史(変容する親密圏・公共圏)』(編集:小山静子・今田絵里香・赤枝香奈子 京都大学学術出版会)を参考に、女性の性規範がどのように作られてきたのか、を解説していきます。


戦後、文部省は「結婚するまで純潔を守るべき」だと主張していた

結婚式和装

かつて、「結婚するまで性行為はしないほうがいい」という価値観があったことを、なんとなく知っている、という方は少なくないでしょう。

こういった価値観はどのように形成されてきたのでしょうか?


実は、純潔を価値のあるものとする考え方は、戦後、文部省が主導的立場に立って、広めてきたものです。


1947年、文部省は「純潔教育の実施について」という文書を作成し、同年6月には「純潔教育に関する具体的方策を調査審議し、または進んでこれに関し建議すること」を目的とする純潔教育委員会を設置しています。


現代から振り返ってみると、文部省が国民に対して、「純潔を守るように!」と指導していたことは滑稽に見えますが、当時の社会状況を鑑みると、あながち突飛な流れでもないことがわかります。というのは、1947年は、男女共学が実施された年であり、それまで別々で学んでいた少年少女たちが、同じ学び舎で机を並べることになった画期的な年でもあったからです。


男女共学が実施されることになったと同時に、これまで関わることのほとんどなかった男女が親しくなる機会が大幅に増すことによる「性の乱れ」を懸念した国が、男女交際や性のあり方について規定したい、と考えるようになったのです。


文部省は、1950年に、純潔を守ることを記した『男女の交際と礼儀』という文書を作成し、以降、純潔教育に力を注いできたのです。


男女平等が促進するために理想とされた『明るい男女交際』とは?

しいたけの中華麺

今でこそ、公立の学校が男女共学であるのは当たり前ですが、戦前は男女別学がデフォルトでした。当時は、男女共学が導入されたことで、男女平等が促進される、と期待する知識人も多かったようです。


純潔教育文化審議会委員の大塚二郎も、そう考えるひとりでした。

大塚は男女共学について、「共学の開設は、男尊女卑のもとに成立している道徳を、男女平等を基礎とした新道徳に変革するという大きな使命を持っています。故に男女共学の学校における、男女交際のありかたと、そのモラルやエチケットは、日本将来の道徳、及び婦人問題解決の鍵であります」と述べており、彼が共学を高く評価していたことがわかる。当時は、戦前の男女関係や女性観を封建的な男尊女卑の考え方であるととらえ、それを打破して民主的な男女平等な関係へと転換する必要性を訴える主張が数多く存在していた(略)そして、民主的な男女関係を構築していく際の鍵となるものが、彼によれば男女共学であり、男女交際なのであった。(P.23)


ここでいう男女交際とは、今でいう男女の交際である一対一で付き合うこと、とは意味が違っています。当時推奨されたのは、「明るい男女交際」でした。

「明るい男女交際」とは、グループ交際かつ、両親の許可を得たあとに開始する交際のことでした。また、結婚するまでは純潔であることが求められました。


これまで関わることのなかった男女が、「明るい男女交際」を通じてお互いを理解し合うことで、男女平等に向かっていく、と考えられたのです。


「純潔」と男女の非対称性

しいたけの中華麺

これまで見てきたように、男女共学や明るい男女交際は、男女の平等促進に役立つものだと評価されていました。

ですが同時に、「明るい男女交際」に必要な純潔については、男女平等とは言えない側面も残っていました。


(引用者註:毎日新聞の)記事は、女子生徒が出産したり中絶手術を受けたりしていることを、「思春期の少女がたどる無軌道ぶり」「少女たちの乱脈な性生活ぶり」とセンセーショナルに伝えていた。そういう意味では、性的な「問題」がもっぱら女性の「問題」として語られているのであり、ジェンダーの非対称性がここにはみてとれるのである。(略)「純潔」というセクシャリティ規範が誰に対してより強く求められるのかという問題、すなわち、女性こそが「純潔」であらねばならないという規範が存在していたことが、ここにはあからさまに示されている。(P,28)


つまり、男女共学は始まった当初は、「明るい男女交際」において男女平等が達成されうるという理念を掲げながらも、実質的には、女性側にのみ強く「純潔」を求める非対称性が残っていたのです。


性規範は時代や文化によって変わる

恋人

戦後、雑誌などのメディアでは、「結婚前に男の言葉にのって純潔を捧げたら、三ヶ月後にポイ捨てされます」という記事を掲載するなど、「純潔を守ることが女性にとっての幸福」だというイデオロギーを支持してきました。


現代では、「結婚前に性行為をしたら男に捨てられる」と主張をするメディアは(たぶん)ありません。ですが、「付き合うまえに性行為をしたら男に捨てられる・なめられる・本命にしていただけない」という考えを流布するメディアは存在します。


性規範は時代によって変わります。1950年前後は、「女性は結婚するまでは純潔であるべき」というのがスタンダードな考え方でした。それから約70年経った今(2019年)、「付き合うまでは性行為をしない方がいい」というところまで変化しています。


この変化を小さいとみるか、大きいとみるかは、人によって違うでしょう。確かなことは、今後も、「女性の幸福のためにはこうするべき」という性規範は変わり続ける、ということです。


変わり続けている性規範ですが、今のところ、男性の性規範が女性よりゆるく、男性の方がより性的に奔放であることが許容されている、という点は変わっていません。


ただし、アメリカなどでは、付き合うまえのデーティング期間に、セックスしてお互いによければ正式なカップルになる、という文化がありますから、今後、日本でも「付き合う前にセックスするのは普通」で、女性にとって損だとは考えられない時代がくるかもしれません。


仮に、女性の方が男性よりも経済力や社会的地位が高いのが普通の世の中であれば、「付き合う前にセックスしたらお付き合いしていただけない」と考える女性は少なくなるでしょう。そうであるならば、今後どのような性規範がスタンダードになっていくのかは、経済や政治といった分野で、男女差がどれくらいなくなっていくのか、によって変わってくる、と言えるかもしれません。



参考


▼バックナンバーはこちら

・明治時代から続くモテ路線。「男らしい男性」ってどんな人?
・「彼氏からのプロポーズを待つ」が危険すぎるワケ
・母親の自己犠牲は「母性」があるから当たり前?
・「女性の性欲」を「無いもの」にするのはやめよう
・セクハラなどの性暴力被害をなくすために、女性ができることは?

▼著者:今来さんの他連載はこちら

・妊活・お金・介護・美容…40歳までに知っておきたいことリスト
・【連載】なんで子供が欲しいの?
  • 今来 今 (フリーライター)

    神戸出身。編集者を経て現在フリーライター。複数メディアにて、映画評・書評・ルポなどを連載中。

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