
ジェンダー・ハラスメントってなに?を弁護士に聞いてみた
- 更新日:2020/09/14
- 公開日:2020/09/14
みなさん、「ジェンダー」という言葉を聞いたことがありませんか?「ジェンダー」とは、社会的な背景に基づいて後天的に作り出された性差のことをいい、生物学的な性差を意味する「セックス(sex)」と区別される言葉です。
最近は、この「ジェンダー」に基づく嫌がらせ、つまり「ジェンダー・ハラスメント」が社会的に大きな問題になっています。
では、そもそも「ジェンダー・ハラスメント」って具体的にどのような言動を指し、どのような問題があるのでしょうか?
今回は、「ジェンダー・ハラスメント」の意味や、「ジェンダー・ハラスメント」に当たる言動、その問題点について、解説していこうと思います。
「ジェンダー・ハラスメント」って何?

「ジェンダー・ハラスメント」とは、社会的性差に基づく嫌がらせ、つまり、「男は男らしく」とか「女は女らしく」といったジェンダーバイアスに基づいて、性差を押し付ける嫌がらせのことを言います。性別を物差しにして判断し、相手を非難したり中傷したりすることとも言えるでしょう。
他のハラスメントと関係あるの?
「ジェンダー・ハラスメント」は、必ずしも性的な意味合いを含むわけではないという点で、相手の望まない性的言動である「セクハラ」とは別の問題として考えられています。そのため、「ジェンダー・ハラスメント」は「男女雇用機会均等法」11条1項のいう「セクハラ」には当たりません。
もっとも、「ジェンダー・ハラスメント」とセクハラやパワハラは、全くの無関係ではありません。性別についての固定観念や、他の性を軽く見てしまう風潮から、「ジェンダー・ハラスメント」に当たる言動によっては、セクハラやパワハラに繋がるおそれが高いといえます。
「LGBT」って何?
皆さんも「LGBT」という言葉を耳にしたことはありませんか?「LGBT」とは、性的マイノリティーを示した用語です。「L」はレズビアン(女性の同性愛者)、「G」はゲイ(男性の同性愛者)、「B」はバイセクシュアル(両性愛者)、「T」はトランスジェンダー(身体的性別と自分で認識している性別が異なる人)を指し、これらの頭文字を取って「LGBT」と表現しています。
そして、「ジェンダー・ハラスメント」には、「LGBT」に対する嫌がらせも含まれます。この「LGBT」に対する「ジェンダー・ハラスメント」が、現代では深刻な社会問題になっているのです。
どういう言動が「ジェンダー・ハラスメント」に当たるの?

では、具体的にどのような言動が「ジェンダー・ハラスメント」に当たるのでしょうか?
「男のくせに」とか「女のくせに」といった発言や、LGBTの人に「オカマ」とか「ホモ」などとからかう発言も、「ジェンダー・ハラスメント」に当たりますが、以下では、実際に職場で起こる「ジェンダー・ハラスメント」の被害実例を踏まえて説明します。
女性だけに雑用をさせる
例えば、「女なんだからお茶出しをしろ」、「女はコピー取りしておけ」、「この仕事は女には無理だから掃除でもしておいて」などという言動は、女性という性別のみを物差しとして判断するものですので、「ジェンダー・ハラスメント」に当たります。
また、場合によっては、「おばさん」、「おじさん」、「お嬢ちゃん」、「坊や」など男性・女性に関する固定的なイメージによる差別的な言動も、「ジェンダー・ハラスメント」に当たることがあります。
男性だけに力仕事をさせる
例えば、「男なんだからこれくらいの力仕事はやっておけ」、「男のくせにこんなのもできないのか」、「男のくせになよなよしやがって」、「男なんだからもっと気合入れて仕事しろ」などという言動は、男は強くなければならないという固定的なイメージに基づくものであり、男性という性別のみを物差しとして判断するものですので、「ジェンダー・ハラスメント」に当たります。
「LGBT」に対する「ジェンダー・ハラスメント」
例えば、LGBTの当事者に対して「働かせてやっているだけでありがたいと思え」と言ったり、カミングアウトした当事者に対して「自分が好きでそうしているんだから、周りに迷惑をかけるな」と言ったりすることは、LGBTの人の人格を否定して「精神的な攻撃」を加えるものですから、「ジェンダー・ハラスメント」にもパワハラにも当たるでしょう。
また、例えば、「ウチの職場にゲイはいないよな」といった発言や、カミングアウトしたLGBTの当事者を無視したりすることは、「ジェンダー・ハラスメント」に当たるだけでなく、「人間関係からの切り離し」としてパワハラにも当たるでしょう。
さらに、例えば、「本当はバイ(バイセクシュアル)なんじゃないの?」などと執拗に問い質したり、一部の人だけにカミングアウトした当事者に対して「LGBTであることを会社に報告するぞ」などとアウティングをほのめかしたりすることは、もちろん「ジェンダー・ハラスメント」に当たりますし、「個の侵害」としてパワハラにも当たると思われます。

「ジェンダー・ハラスメント」は、加害者側が無意識のうちにやってしまっている場合も多く、職場に限らず、家庭でも日常生活でも、誰でも加害者になる可能性があるハラスメントです。性の多様化した現代では、特に「LGBT」に対する「ジェンダー・ハラスメント」が重要で深刻な社会問題になっているといえます。しかし、残念ながら「ジェンダー・ハラスメント」について直接規制する法規定は、現在の段階ではありません。
ただ、男女共同参画基本法では、男女共同参画社会を実現する上で、男女が性別による差別的な取扱いを受けないことなどについて配慮が必要としています。また、平成28年7月に厚生労働省が公表した「パワーハラスメント対策導入マニュアル(第2版)」には、「性的指向や性自認についての不理解を背景として、人間関係からの切り離しなどのパワーハラスメントにつながることがあります。このようなことを引き起こさないためにも、職場で働く方が、性的指向や性自認について理解を増進することが重要です。」と記載されています。
「ジェンダー・ハラスメント」を受けていても、それを加害者側に「やめてほしい」と伝えるのが難しいこともあると思います。我慢していても問題が解決するわけではありませんので、親身になってくれる人に相談したり、弁護士などの専門家に相談したりする方が良いでしょう。
私の友人にもLGBTのアーティストがいますが、カミングアウトするまで大変思い悩んでいたようですし、カミングアウトした後も、いろいろな壁にぶつかって苦労しながら前を向いて素晴らしい活動を続けています。
「ジェンダー・ハラスメント」をしない・受けないためには、皆さん個々人が、多様化した性に対してもっと理解を深めて、認め合えるような社会になることが重要なのだと思います。
■弁護士に聞いてみた|バックナンバー
・マタハラ被害を訴えたい!マタハラ被害に対して何を請求できるの?・そのマタハラは法律違反です!マタハラに関する法制度・法規定
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田中雅大
(弁護士/第二東京弁護士会所属)
1975年生まれ。埼玉県出身。証券会社に勤務した後、2010年に弁護士登録。中小企業の法務や不動産案件を中心に扱いつつ離婚や不倫などに関する数々の男女トラブルを解決。趣味はサーフィン、草野球。
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