
結局、「女と男」どっちが得? を考える
- 更新日:2020/08/10
- 公開日:2020/08/10
ネットでは、フェミニストが叩かれることがよくありますよね。
「女性は弱者のふりをして権利を主張しているけど、男の方が差別されている!」「楽をしているのは結局、女の方!」などの主張をする男性もいます。
結局のところ、現代日本において、「女と男」どちらの方が得をしていて、生きやすいのでしょうか?
今回は、社会学者の山田昌弘さん著『モテる構造―男と女の社会学』(筑摩書房)を参考に、男女どちらが得か問題について考えてみたいと思います。
「女性の方が得である」というデータ。自殺者、ホームレス、引きこもりには男性が多い

まずは、「女性の方が得である」と主張する論拠になるデータを確認しておきましょう。(第1章参考)
★「女性の方が得である」の論拠になりうるデータ(カッコ内は参照元)
・女性の平均寿命は87.1歳、男性は80.77歳(※1 2015年厚生労働省)
・女性の自殺者は6550人に対して、男性は倍以上の14290人(※2 2018年警察庁)
・女性のホームレスは171人しかいないが、男性のホームレスは4253人(※3 2019年厚生労働省)
・引きこもりの男女比は、女性33.9%、男性66.1%(※4 2010年内閣府)
・「とても幸せ」を10点、「とても不幸」を0点として幸福度を測る調査によると、女性の幸福度は6.69点、男性は6.24点と、女性の方が幸福度は高い(※5 2009年内閣府「国民生活選好度調査」)
これらの調査を総合すると、女性は男性よりも長生きで自殺者もホームレスも引きこもりも少なく、幸福度が高い、という結果になります。ですが、だからといって女性の方が得、と結論づけることはできません。
「男性の方が得である」というデータ。女性の方が低賃金であり、貧困率が高い

次に、「男性の方が得である」と主張する論拠になるデータも確認していきましょう。(第1章参考)
★「男性の方が得である」の論拠になりうるデータ(カッコ内は参照元)
・貧困率は女性27.1%、男性16.6%(※6 2012年内閣府男女共同参画局)
・大学進学率は女性48.2%、男性55.6%(※7 2016年内閣府男女共同参画局)
・管理職比率(部長相当)は女性4.9%、男性95.1%(※8 2013年内閣府男女共同参画局)
・国会議員に占める女性の割合は衆議院7.9%、参議院18.2%(※9 2013年内閣府男女共同参画)
・平均賃金は、正社員でも、男性を100とした場合、女性は73.4(※10 2018年厚生労働省)
・非正規従業員の数は、女性が1451万人、男性が669万人(※11 総務省統計局)
・執拗なつきまといなどの被害経験は、女性が10.5%、男性は4%(※12 2014年内閣府)
・配偶者からの暴力被害経験は、女性が23.7%、男性が16.6%(同上)
これらのデータによると、男性は女性より高等教育を受ける機会に恵まれており、女性に比べて正社員や管理職にもなりやすく、貧困になりにくい、と考えられます。また、議員になる機会も開かれており、暴力の被害者になる可能性も女性に比べたら低い、といった利もあります。
興味深いのは、女性の方が男性よりも幸福度が高いという調査がある一方、「生まれ変わるなら男がいいか女がいいか」という質問に対しては、男性の方が圧倒的人気だという点です。
★生まれ変わるなら男?女? 女性に生まれ変わりたい男性は少ない
2008年統計数理研究所「日本人の国民性調査」では、1958年から2008年にかけて「生まれ変わるなら男がいいか、女がいいか」を男女にアンケート調査しています。50年間にわたって、「女性に生まれ変わりたい」と答えている男性は、7%を超えることはありません。一方、女性は、1958年時点では「男性に生まれ変わりたい」と答えた女性は27%ですが、その後右肩上がりになり、2008年では実に71%の女性が、「次は女性ではなく男性に生まれ変わりたい」を選択しています。
この背景には、男女間に不平等があるということについてのリテラシーが高まり、「女性は損」だと考え始める女性が増加していったことが一因として考えられます。
ただ、男女ともに「男性に生まれ変わりたい」と考える人の方が圧倒的多数だからといって、男性の方が生きやすい世の中である、とは断じることはできません。なぜなら、男性には、「女性らしくする」ことに対するスティグマがあるからです。女性が次は男性になりたいと言っても笑われませんが、男性が「女性になりたい」と明言することには、“弱さの表れ”や、“男らしくない”などと言われてしまうリスクがあります。そのため、男性が「女性に生まれ変わりたい」を選択することに心理的な抵抗がある、と考えても不思議ではないのです。
つまり、「次も男性に生まれ変わりたい」と宣言する男性が50年間を通して9割を超えているという状況は、男性の方が既得権益に守られていることの証明であるとともに、男性が「男らしくあること」を降りにくいプレッシャーにさらされており抑圧されているからだ、と考えることもできるのです。
お互いの「生きづらさ」を軽視しないことが、男女ともに生きやすい社会を作る

結局、女性と男性は、どちらが得で、どちらが生きやすいのでしょうか?
高収入を得たい、出世したいと思うなら明らかに男性が有利であり、ホームレスになりたくないなら女性として生まれた方が有利です。つまり、見方によってどちらが得かは変わるため、一概にどちらが得と言い切ることはできないのです。
女性には女性の生きづらさがあり、男性には男性の生きづらさがあります。
男女ともに生きやすい社会を作るためには、「女性が(男性が)得をしているから、男性が(女性が)損をしている」と足を引っ張り合うのではなく、お互いの生きづらさを軽視せず、理解しようと努めることが必要でしょう。
参考書籍
引用/参考文献
※1厚生労働省『平成27年都道府県別生命表の概況』―都道府県別にみた平均寿命の推移
※3厚生労働省『報道発表資料 2019年4月』ホームレスの実態に関する全国調査
※4内閣府『平成22年若者の意識に関する調査(引きこもりに関する実態調査)』調査の結果
※5内閣府『平成21年度国民生活選好度調査の概要』どの程度幸福か(男女別)
※6内閣府男女共同参画局『平成24年度版男女共同参画白書』男女別・年齢階層別相対貧困率
※7内閣府男女共同参画局『平成29年版男女共同参画白書』教育をめぐる状況
※8内閣府男女共同参画局『平成25年版男女共同参画白書』役職別管理職に占める女性割合の推移
※9内閣府男女共同参画局『平成25年版男女共同参画白書』政策・方針決定過程への女性の参画
※10厚生労働省『平成29年賃金構造基本統計調査の概況』性別賃金、対前年増減率及び男女間賃金格差の推移
※11総務省統計局『労働力調査平成30年平均』雇用者(正規、非正規の職員、従業員別の動向など)
※12内閣府男女共同参画局『「女性に対する暴力」に関する調査研究』男女間における暴力に関する調査
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