
【小説】ジユウな母とオクビョウな私 #21 ベランダの鳩(21)
- 更新日:2019/05/30
- 公開日:2019/05/02
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#21 ベランダの鳩(21)
「いつもあんなふう?」
ふらふらと先を歩く太陽と美香ちゃんの背中を、軽く目で追ってから私が訊くと、
「だいたい」
奥平君は少しおどけたような顔をして言った。
ベトナムの瓶ビールを飲み、揃って上機嫌な四人のうち、一番酔っているのは明らかに太陽だった。もともと陽気なタイプだったけれど、自分でちょっとよろけては笑い、恋人の美香ちゃんにどうでもいいちょっかいを出しては笑い、次のお店をどこにしようか悩んでは笑う。
「よく遊ぶの?」
「うん……たまに」
「太陽と? 二人と?」
「半々くらいかな、地元だし」
奥平君は言うと、ん、と咳払いして、
「こごみんちのおばさんにも、たまに会う」
と言った。
「どこで!」
「えっと、飲み屋で」
「うるさいんでしょ」
「いつも楽しそうにしてる」
「うー」
と私が頭を抱えたのを見て、太陽が、
「おーい、そこの二人、もめてないで早くこい」
と楽しげに手招きした。一緒にいる美香ちゃんも、太陽を支えているようで、案外頼りない、あやしげな足取りをしている。
もんじゃ焼きを食べよう、と言ったのは太陽だった。
「えー、なんで? ここに来て、もんじゃ?」
私は不満を口にした。もちろん私が暮らす月島の名物はもんじゃ焼きで、寮のすぐ近くには、専門店が並ぶ「もんじゃストリート」と呼ばれる一帯もある。
それを知っての上でのもんじゃ、というより、きっとその連想から食べたくなったのだろう。
「いいじゃん、いいじゃん、食べたいんだよ俺、もんじゃ焼き」
やっぱり単なる酔っぱらいの思いつきだったらしい。
どうして地元に戻ってまでもんじゃ……と私はまだ少し抵抗したけれど、
「いいから食べようぜ」
二階のお店へとつづく階段に片足をかけている太陽に手招きされ、軽く押し切られてしまった。
(つづく)
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■ジユウな母とオクビョウな私|バックナンバー
第16話:ベランダの鳩(16)
第17話:ベランダの鳩(17)
第18話:ベランダの鳩(18)
第19話:ベランダの鳩(19)
第20話:ベランダの鳩(20)
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藤野千夜
(小説家)
1962年2月生まれの魚座のB型。 2000年に『夏の約束』で芥川賞受賞。 著書に『ルート225』『君のいた日々』『時穴みみか』『すしそばてんぷら』『編集ども集まれ!』など。
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