
【小説#70】口に出すと現実味を帯びる心に芽生えていた感情
- 更新日:2019/04/15
- 公開日:2019/04/09
前回のあらすじ:幸太の腕に抱かれながら、夏美の中を様々な疑問が巡っていく。
矛盾。無配慮。強引。幸太のカラダから温もりが伝わるたび、夏美の中には嫌悪が広がっていく。
早く帰らなくちゃ。そう思い、全力でことを収めにいく夏美。「ごめんね。ありがとう。ごめんね」と、カタチばかりの言葉を繰り返し、家路につく2人。幸太を駅で見送ると、夏美は全身から力が抜ける感覚に襲われ、その場にへたりこんでしまう。
自分を鼓舞しながらなんとか立ち上がろうとするも、この時彼に嫌悪している自分には、まだ気づいてあげることができなかった。
風呂は心の洗濯だとどこかで聞いたことがあるけれど、洗ったからといって、汚れが落ちるとも限らないのだ。 勢いよく湯船につかると、思わず「あああ〜」と我慢の音が口をついてでる。 幸太と別れ、家に帰り、お湯をため、片付けもそこそこにお風呂へと入る。 途中、弘が「どうかした?」と心配そうな声をかけるも、「ああ、いや」と曖昧さを残したまま無視してしまう。 カラダを洗いたい。1日の疲れだけでなく、幸太の匂いを。こびりついた疲労と不満を。いますぐ忘れてしまいたい。 お湯に包まれた瞬間、足元から温かさが一瞬で上がってくる。固くなったカラダがほぐれ、自分がどのくらい緊張と冷えを溜めていたのかを実感する。 「ムカつく」 端的に表現するなら、この一言ですむ。 都合よく遊ぶ幸太。面倒がる幸太。抱きすくめれば納得すると、浅はかさを見せる幸太。気づけば夏美の中を、幸太の嫌な部分が浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。交際から半年ちょっと。こんなに腹立たしく感じるのは初めてのことだ。 「なんで私が。なんで私が。なんで私が…」 意味もなく呟くと、同時にため息が漏れる。「なんで私が」のあとに何か続けたい言葉があるわけでもない。 「あー……」 夏美は長く曖昧な声を吐き出し、次の一言を言うか言うまいか、一瞬だけ喉のあたりで考える。 「もう、別れよっかな」 言葉に出すと、カラダからすーっと力が抜けていくのを感じる。 「別れちゃおっかな」 「別れたい」 「ていうか、付き合ってる意味ないもんね」 繰り返して言うほど、カラダが楽になる。気がする。その感覚を味わいながら、夏美ははじめて自分の本心を感じ取る。 「もう幸太なんて好きじゃないかも」 そう言いながら天井を見上げると、ポツンとタイミングよく水滴が顔に落ちる。 ソレが何かの合図な気がして、夏美は目を閉じ冷たさを感じる。 その後、無意識にお湯をすくって顔にかけると、視界がぐっと鮮やかになるような、新鮮さを覚えるのだった。 NEXT ≫ 第71話:「なんで浮気したの?」自分も気づいていない隠された気持ち 第1話:とにかく結婚したい!家族の輪から取り残されるのは、私が独身だから? 第65話:浮気相手の真実を知ったとき湧き上がる感情ととっさに取った行動 第66話:浮気相手の裏切り…!?問い詰めた先に返ってきた答えとは 第67話:ついに語られる真実!「シたけど違う!ってどういう意味? 第68話:わかって!謝って!振り絞って伝えた気持ちに返ってきた答え 第69話:嫌悪していく心。それは一瞬のゆらめき?それとも本心なの?恋愛パラドックス ~しんどい女子の癒し方~:第70話:口に出すと現実味を帯びる心に芽生えていた感情
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おおしまりえ
(恋愛ジャーナリスト/イラストレーター)
水商売やプロ雀士、一部上場企業などを渡り歩き、のべ1万人の男性を接客。鋭い観察眼を磨き、ゆりかごから墓場まで関わる男女問題を研究。本人も気づかない本音を見抜く力で、現在メディアや雑誌でコラムを執筆中。
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