
【小説#4】不倫は普通の恋愛と変わらない!罪悪感ないけど何か問題ある?
- 更新日:2019/03/19
- 公開日:2018/03/12
前回のあらすじ:遥は帰宅中、真紀の忠告を思い出す。「私の不倫って、そんなに悪いことなの?」遥の脳裏を疑問がよぎる。真紀の剣幕とは裏腹に、遥にはこの恋のなにが悪いのかわからなかった。電車に揺られながら、これからくる哲也との甘い時間を前に、遥は一旦冷静に頭を働かせてみるのだった。
恋愛パラドックス ~しんどい女子の癒し方~:第4話 不倫は普通の恋愛と変わらない!罪悪感ないけど何か問題ある?
遥はマンションの階段を3階まで一気にかけあがり、息をととのえて扉をあける。
「ただいま!」
勢いよく部屋の奥をのぞくと、くつろぐ哲也と目があう。
「おかえり!」
目をあわせたまま靴をぬぎ、そのまま奥へとつきすすむ。「会いたかった」という言葉を抱きついて表現すると、哲也は体勢を崩しながらも、腕を回し、背中をなでてくれる。
「お疲れ。勢いあまって、どうした?」
密着すると、哲也の暖かくて懐かしいニオイが流れ込んでくる。汗に整髪料に柔軟剤が混ざりあった香りは、独特の安堵感を与えてくれる。
「飲み会がしんどくてさー……早く帰りたかった」
哲也はそっかーと言いながら、背中をまたポンポンとなでてくれる。
「俺も今日は部の目標達成会だったけど、疲れたよ」
気づけば話の主導権は、遥から哲也に変わっていた。でも哲也の愚痴を聞くのも嫌いじゃない。会社では人当たりのいい彼が、私の前だけで愚痴を言うということが、特別であり、価値のあることに感じられるからだ。
「ビンゴの景品がけっこう豪華でさ、ネズミーランドのチケットとか商品券とかあったんだよね。俺幹事だから、細工してゲットしてやろうかと思ったよ」
「えーネズミーランド、行きたい!」
「残念だけど、また今度いこうね」
他愛のない妄想の中にも、幸せって感じられるものなんだな。遥はすっかり気持ちを千葉方面に飛ばし、腕をほどき哲也の隣に座りなおす。
それが合図のように、こんどは哲也が優しく遥を抱き寄せ、唇にフッと優しく息をふきかけ焦らす。
ほのかにお酒のニオイを感じるが、嫌な気持ちはしない。遥はくすぐったさをこらえ、吐息に唇をあてがい、目を閉じそのまま高揚感と安らぎの中へと沈んでいく————。
ネズミーランドに堂々といけるくらい、あたしたちは普通のカップルと変わらないんだ。
そんな想いがふと頭の中をよぎる。
不倫とはいえ、2人は普通にお泊りをするし、土日は外へデートにも出かける。もちろん手もつなぐ。哲也は家には当番制の夜勤と言っているらしいが、妻はそれに関して一切関心をしめさない。らしい。
その証拠に、遥と一緒のとき、哲也のスマホがメッセージや電話を受けることは、ほとんどなかった。
「俺たち家族は終わってるんだよ」
子どもがいるけど、最低限のコミュニケーション以外は話さない。それも最近は奥さんに拒否されている。そんな彼からの現状報告に、遥は理解を示し、そして焦らずこの関係をはぐくみ、彼を支えようと思っていた。
『離婚とかそういう話は、ゆっくりと考えればいい。今この瞬間を味わえればいいんだ』
以前真紀に詰められた際、遥はそう返答したものの、ブーイングの嵐だったっけ。怒られてもやっぱりそれが本当に本当の本心だし、1年たった今も気持ちは変わらない。
遥はセックスの合間に、どうして自分が親友のおせっかいを思い出したのか、不思議な気持ちになる。
「でも、私は幸せだ」
心の中で一瞬のモヤモヤをかき消し、腕の中でもう1回深呼吸をする。
そのとき、ふとベッドの脇にあった哲也のカバンが倒れ、中から茶封筒らしきものがチラリと見える。
あれ?なんだろう。違和感が一瞬走る。
「遥?」
哲也に呼ばれ、意識をもどして今は忘れることにした。
翌朝になって、遥は昨日の違和感が大きくなっていることに気がついていた。何気なく目に入った茶封筒。哲也はそのあと隠すような素振りもみせなかった。でも普段彼のカバンには、手帳とPCとゲーム機と、時々本が入っているだけなのを、あたしは知っている。
「ちょっと覗くだけ…」
そう考えたら、罪悪感と恐怖心の波が押し寄せる。これじゃあまるで、あたしが彼を信じてないみたい。
信じる気持ちと違和感が一気に溢れ、どうするのが正解かわからなくなる。
もし浮気の証拠だったらどうしよう。あ、でも私が浮気相手だから、そもそも浮気の証拠って発想が変なんだ。
脳内でヘンテコな会話をしながらも、手は勝手にカバンをたぐり寄せていた。
哲也はさっきお風呂に入ったから、15分は大丈夫。頭の中で素早く計算をし、なるべく他の物に触れないように、そうっと手を入れ茶封筒を見つけ出す。
封のされていないソレを見つけ、おそるおそるカバンから引き抜き、中身を抜き出す。そこには可愛らしいキャラクターの絵とともに『ネズミーランド招待券』と書かれた紙が2枚入っていた。
『ビンゴの景品がけっこう豪華でさ、ディズニーのチケットとか商品券とかあったんだよね』
『残念だけど、また今度いこうね』
哲也の言葉がフラッシュバックし、心臓がバクバクと強く打ち付け、息がハッハッハッハッと浅くなる。
チケットを握る手が、ぐっしょりと汗ばんでいるのを感じる。哲也はこれを、誰と使うつもりだったんだろう。
昨日はなんて言ってたっけ。
不安で体がどんどん固まり、思考が同じ場所をぐるぐる回っている。
聞くべき?でも聞いたら勝手にカバンを見たことがバレちゃうし。
そうこうするうちに、バスルームの方からシャワーの止まる音がする。あわてて封筒やカバンを戻し、遥は朝のワイドショー番組をつけ、気を紛らわせる。
“さー今日のガッカリ星座さんは、双子座のあなた!1日思い通りに行かない日。冷静さを忘れず、ゆっくり着実にいきましょう”
小気味良いテンポで、占い結果がテレビから流れてくる。
「双子座って、私だ」
混乱とタイミングの良さに、遥はおもわず体をのけぞらせ、「ヒヒヒッ」と乾いた声で笑った。
NEXT ≫ 第5話:不倫の疑心暗鬼は、他の男で解消するもの
■恋愛パラドックス ~しんどい女子の癒し方~バックナンバー
第3話:4年彼氏ナシ女と不倫女子!どちらが幸せで充実した人生か
第4話:不倫は普通の恋愛と変わらない!罪悪感ないけど何か問題ある?
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おおしまりえ
(恋愛ジャーナリスト/イラストレーター)
水商売やプロ雀士、一部上場企業などを渡り歩き、のべ1万人の男性を接客。鋭い観察眼を磨き、ゆりかごから墓場まで関わる男女問題を研究。本人も気づかない本音を見抜く力で、現在メディアや雑誌でコラムを執筆中。
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