
【小説】ジユウな母とオクビョウな私 #47 恋する時間(17)
- 更新日:2020/06/18
- 公開日:2020/06/04
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#47 恋する時間(17)
なんて! というのはもともと九州育ちの祖母の口癖で、それが関東出身の祖父にうつり、おじいちゃん子だった私にも、小さな頃にうつったのだった。
今はそんなに使うわけではないけれど、ひどくびっくりしたときに、思わず口をついて出る。
昔ながらのその口癖を、小中学校の同級生だった太陽たちは、覚えていて笑ったのだろう。
きっと言うよ、と予測していたのかもしれない。
「おーい」
エントランスを出るとすぐ、通りの向こうに青い車を停めた三人組が、外に立って手を振っているのが見えた。
「おーい、こごみ」
太陽が手を伸ばして、ひときわ大きな声で私の名前を呼ぶ。「おまえ、なんか動きがへんだぞ!」
「きゃっ。声が大きいって」
私は照れながら、小走りで通りを渡った。
「そうか?」
あたりを見回して、大柄な太陽は首をすくめた。狭い通りをはさんで、向こうが私の暮らす「寮」。車を停めたこちら側は、うしろに低層のパーキングビル。そのビルの向こうに、川が流れている。
「わりぃ」
「ま、いいけど」
私は笑った。美香ちゃんと奥平君も笑っている。
「三人で急にどうしたの」
「ん? みんなでこごみの様子を見に来た」
太陽はにっこりと言った。相変わらず、ムダにルックスがいい。
「うそっ」
「ほんと」
「いなかったら、どうすんの」
「いなかったら? 適当に遊んで帰るだろ」
「そっか、そうだよね」
「なんか、すっごいおしゃれなとこに住んでんのな」
太陽の言葉に、あ、うん、と少し遅れて反応した。「寮」の建物は、たしかにデザイン性の高い、きれいな外観のものだった。
あらためて見ると、いいな、と思うこともよくある。
ただ私としては、ありふれたいつもの景色に、地元の友だちがいることのほうにどきどきした。
(つづく)
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■ジユウな母とオクビョウな私|バックナンバー
第42話:恋する時間(12)
第43話:恋する時間(13)
第44話:恋する時間(14)
第45話:恋する時間(15)
第46話:恋する時間(16)
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藤野千夜
(小説家)
1962年2月生まれの魚座のB型。 2000年に『夏の約束』で芥川賞受賞。 著書に『ルート225』『君のいた日々』『時穴みみか』『すしそばてんぷら』『編集ども集まれ!』など。
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