
【小説】ジユウな母とオクビョウな私 #31 恋する時間(1)
- 更新日:2019/10/10
- 公開日:2019/10/03
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#31 恋する時間(1)
「寮」に帰ってホッとひと息つくと、月曜日からまた出勤して仕事をこなした。
火曜日のお昼に小麦粉好きの先輩、中園さんと定番の「花時計」へホットケーキのランチを食べに行き、うまい、やっぱりうまい、と二人で絶賛。私は二段、中園さんは三段をぺろりと平らげると、コーヒーを飲みながら、ベランダの鳩の巣の話をする。
といっても、母からの連絡はその後なかったから、駆除業者が来てくれたかどうかもわからなかったけれども。
「意外に生々しいんですよ、ひな。放っておくと、すぐ大きくなるんでしょうけど。それはそれでこわいですよね」
「鳥だもんね。人間みたいに十何年も子供やってるわけにいかないよね。巣立つのに一ヵ月もかからないでしょ」
「あー。そう思うと、人間の親って大変ですね。いつまでも、いつまでも子育て」
「少し感謝した? お母さんに」
「いいえ、うちは問題母なんで。でも、わらびなんて、二十歳すぎても家で甘えまくってますよ。ご飯は作らないし、掃除も、洗濯もしない。そのくせ彼女は作っちゃって!」
「二十歳すぎならまだ可愛いんじゃないの? 結婚するまでお母さんに全部面倒みてもらって、結婚したら、あとは奥さんにまかせるって人、たくさんいるんじゃない?」
確かにそんなマザコン系の仕事男は、たくさん生息しているのかもしれない。とはいえ、ランチタイムの「花時計」には、老舗のフルーツパーラーで働いていたという店長以外、見事なくらい男の人の姿はない。
〈こごみって、次いつ帰る? 今週? また飲み会する? 肉バル行こうぜ〉
さっそく太陽にLINEで誘われ、私は少し困った。
毎週末、飲み会をしているとは聞いたけれど、本当に毎週誘ってくれるのだろうか。
〈今週はちょっと無理かな。ごめん〉
〈そーなの? じゃあ、いつ? 来週?〉
〈わからない……来月……後半くらい〉
〈え! そんな先? 忙しいの? 仕事?〉
仕事じゃないけどいろいろ……と入力しかけてやめた。ごめんね、と可愛いめのスタンプを送っておく。どんまい、と美香ちゃんからのスタンプが届いた。
ずっと恋人も好きな人もいないと教えたから、太陽には、よっぽど暇に思われたのだろう。
恋愛と仕事以外にも、人にはたくさん用があると思うのだけれど。
(つづく)
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■ジユウな母とオクビョウな私|バックナンバー
第26話:ベランダの鳩(26)
第27話:ベランダの鳩(27)
第28話:ベランダの鳩(28)
第29話:ベランダの鳩(29)
第25話:ベランダの鳩(30)
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藤野千夜
(小説家)
1962年2月生まれの魚座のB型。 2000年に『夏の約束』で芥川賞受賞。 著書に『ルート225』『君のいた日々』『時穴みみか』『すしそばてんぷら』『編集ども集まれ!』など。
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