
【妊活】がんになっても子供は産みたい!『卵巣凍結』という方法知ってる?
- 更新日:2017/04/17
- 公開日:2017/04/15
若い世代でもがんにかかる女性が増えつつあって…
若い女性のがんが報道され、不安に思う20代30代の妊活世代の女性からさまざまな相談が寄せられます。
がんの中でも、子宮頸がんは20代30代がどの年代よりも多くかかっています。乳がんも少しずつですが、若年化の傾向が見られます。
今、がん治療は飛躍的に進歩しています。
治療の進歩によって、がんを克服した患者さんが増えてきて、治療後の生活の質(QOL)の大切さに、目が向けられるようになってきています。
特に、若い世代のがん患者さんへの治療は、治療内容によっては、その副作用によって、卵巣などの生殖機能に影響を及ぼし若くても閉経状態になったり、子宮・卵巣など生殖臓器を失ったり、ホルモンバランスの異常や不妊症の状態に悩むことがあります。そのため、将来の赤ちゃんをもつことが困難になること(妊よう性の喪失)があります。
そのため、がんは治療できても、治療後、長いあいだに渡ってQOLの低下や人生の選択に悩むことがあります。
これまでは、病気を克服することが最大のゴールであったため、がんを叩くことが優先で、がん治療によるQOL低下や人生の選択の悩みの問題点には、目をつぶらざるを得ませんでした。
がん治療後も妊娠する力を残す~卵子、受精卵、卵巣凍結保存
けれども、近年、医療の進歩によって、一定の制限はつきますが、がん治療後の妊よう性(妊娠する力)を残すための治療法が試みられるようになってきています。
たとえば、子宮がんや卵巣がんの治療で妊よう性を残すために、子宮や卵巣を残す手術、放射線治療から卵巣を保護する治療、さらに生殖補助技術で卵子、受精卵の凍結保存などはかなり普及してきています。
また、最近では、卵巣ごと凍結保存して、がん治療後に、再度体内に卵巣を移植する技術も少しずつ確立されつつあります。
この治療法は、まだまだ発展途上ではありますが、海外では2004年から20名以上の出産例が報告されています。
徐々にですが、今後妊娠、出産の可能性のある若い世代の患者さんに、妊よう性を温存することができる可能性が芽生えてきました。
がん治療医と婦人科医の連携が大
ただし、まだまだ難しい点もあります。
がん治療を目前に、がんで不安でいっぱいの患者さんに、将来の妊娠について説明して、限られた時間の中で、患者さんが将来の選択を行うのは簡単なことではありません。
また、妊よう性を残すことに対して、充分な情報提供ができる施設がまだ少なく、“がん治療医”と“生殖医療の医師”、さらに患者さんの分娩を引き受けてくれる“周産期の産婦人科医師”との連携が不充分であるというも問題です。
「日本がん・生殖医療学会」 では、「がん治療、及び将来の妊娠という双方の点について、患者さんが充分な情報を得たうえで、最良の選択ができるような社会づくりをする」という考え方で、専門科や職種の垣根を越えて情報交換や発信をしています。
がん治療医と産婦人科医が協力しつつ、「がんになっても赤ちゃんを産みたい」という患者さんの思いを応援するために、情報提供、医療の提供、ネットワーク作り、研究や医療技術開発を行っています。
卵巣ごと凍結保存する技術はどこまで進んでいる?
近年、行われつつある卵巣ごと凍結保存し、がん治療後に、体内に卵巣を移植する技術=卵巣組織凍結保存はどこまで進んでいるのでしょうか…。
がん治療で、抗がん剤やホルモン療法、放射線治療を遅らせることができないけれど、治療後に将来、妊娠、出産を望む患者さんにとって、有効な治療法が卵巣組織凍結保存です。
これは、手術(おもに腹腔鏡手術)で、卵巣の片側、あるいは一部を取り出して、がんの治療が終わったあとで、体内に卵巣組織を戻すという、妊よう性を残す新しい治療です。
けれども、新しい治療方法のため、有効性や安全性に関してわからない点も少なくないため、2014年に米国生殖医学会(ASRM)で示された新ガイドラインでも、まだ“試験的な治療法”とされています。
現状では、卵子だけを取り出す採卵ができない、思春期までの患者さんだけに適応される治療と考えられています。
がん治療後卵巣凍結保存で出産できたのは60ケース
卵巣組織凍結保存は、2004 年に最初の出産例が報告されてから、現在まで出産は60ケースの報告しかありません。
がん治療後、卵巣組織を移植した66ケースのうち、93%の患者さんの卵巣機能が回復したと報告されていて、注目されています。
特にヨーロッパでは、“卵巣組織凍結保存は、早期に閉経してしまうような卵巣に毒性を与える治療を受ける、全ての若い女性のがん患者さんに、選択肢として提供すべき医療行為”とされています。
日本でも、2014年に日本産科婦人科学会は、
“悪性腫瘍(がん)などにかかった女性に対して、治療で手術、化学療法(抗がん剤など)、放射線治療などを行うことで、その女性が妊娠・出産を経験する前に、卵巣機能が低下してしまい、その結果、妊よう性が失われると予測される場合は、妊よう性を残す方法として、未受精卵子を採取・凍結・保存することが考えられます。
また、卵巣組織の採取・凍結・保存については、未受精卵子の場合と同じ医療行為であり、基本的に妊よう性を残す治療に含まれるものと考えます”
としています。
2016年4月現在、20 施設で、卵巣組織凍結保存・移植が行えるようになっていて、徐々にその症例数が増加してきています。
卵巣凍結にはデメリットも
卵巣組織凍結のメリットは、受精卵や卵子の凍結に比べて、保存できる卵子の数が圧倒的に多く、妊よう性を残す治療として、非常に有効性の高い治療と考えられます。
また、月経周期に左右されず、排卵を起こす必要もないため、短期間で保存治療ができることも大きなメリットです。
一方で、大きなデメリットもあります。
凍結した卵巣組織に、微小に残存したがんが混入する危険性があります。
つまり、凍結保存した卵巣組織に、がん細胞の転移があり、卵巣組織を移植したことによって病気が再発する危険性があるという可能性があるのです。
そのため、特に、白血病や卵巣がんなどでは、がん細胞が混入するリスクが高いため、卵巣組織凍結や移植は、推奨されていません。
しかし、初期の乳がん患者さんへの卵巣組織凍結の安全性は、高いと言われています。
卵巣組織凍結保存・移植を行うときに、最も重要な点は、若い女性のがん患者さんが希望を持ってがんと闘うために、がん治療する主治医と産婦人科医が密接な医療連携をとることによって、何よりもがん治療を最優先して、そのなかで妊よう性を残すことを考えることが大切です。
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増田 美加
(女性医療ジャーナリスト)
女性誌や女性専門サイトで、女性の医療&健康・美容現場を取材&執筆。2006年に乳がんを経験。検診の啓発、更年期への対策、予防医学の視点より、健康で美しくイキイキと生きるためのエイジングケア講演を行う。
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