女性の幸せ

恋愛を経て母になることこそ女の幸せ?昭和初期から続くモテテクとは

  • 更新日:2019/06/28

「女の幸せ」という言葉を聞いて、どういったことをイメージしますか? 素敵な男性に愛されて結婚をし、子供を授かる、といったことをイメージする方は多いでしょう。

一方、「男の幸せ」という言葉はあまり耳にしませんし、「男の幸せ」が、女性に選ばれて結婚し、子供を育てることだ、とイメージする人はほとんどいないと思われます。


なぜ、このような非対称性が生まれるのでしょうか?


今回は、『男たち/女たちの恋愛: 近代日本の「自己」とジェンダー』(勁草書房・田中亜以子著)を参考に、「恋愛や結婚における、男女の非対称性」や「女の幸せとは何か」について考えていきたいと思います。


明治・大正時代における、女性と男性の「恋愛と自己実現」の差

恋愛

「恋愛を経て結婚・出産することが、女性にとって幸せな生き方だ」と思われるようになったのは、いつからでしょうか?

恋愛という概念が日本に導入されたのは明治時代のこと。恋愛は、LOVEの翻訳語として日本に導入されました。恋愛概念が導入された初期は、立身出世の重圧に苦しむ男性が、社会的な自分ではなく、「本当の自分」を表現できる場所として、「恋愛」を捉えていたといいます。


一方、女性には立身出世しなければならない、というプレッシャーがなかった代わりに、自分で稼いで独立するという道や、文学などの芸術分野で個性を表現するという道はほとんど選択することができませんでした。そのため、生きるために結婚し、誰かに養ってもらう必要があったのです。


そういった女性たちがすがったのが、スウェーデンの社会思想家である、エレン・ケイによってなされた、「恋愛を経て、母になることこそが、女性にとって唯一の自己実現の道だ」という主張です。


女性の文芸誌である『青鞜(せいとう)』を発刊していた平塚らいてうは、この主張に影響を受け、度々、誌上でエレン・ケイの言説を紹介していたといいます。


当然、こういった「恋愛至上主義」「母性中心主義」に意を唱える女性たちも存在したのですが、大正時代には、恋愛と結婚、生殖を結びつけて考えるロマンチック・イデオロギーが大流行(それまでは家の都合で結婚相手を決められることが多かったため、自由恋愛で相手を選べるということが、女性にとって唯一の自由獲得の方法であると考えられ、もてはやされていた)し、「恋愛と結婚は切り離せないもの」「恋愛結婚を経て子供を産み育てることこそ女性の幸せ」という価値観が強化されていくことになったのです。


昭和初期から流行していた「愛され女子」。昭和の愛されテクとは?

可愛い女性

「恋愛を経て、母になることこそが、女性にとって唯一の自己実現の道だ」と考えれば、男性から選ばれ愛されることは、女性にとっての至上命題になってきます。


昭和初期に発行されていた婦人雑誌では、「幸せな主婦」イメージや、「愛される主婦になるため」のテクニックが度々紹介されていました。

ここでは、昭和初期に婦人雑誌『主婦之友』で紹介されていた、愛され主婦になるためのアドバイスを紹介していきます。


夫の愛をひきつけておくために妻に求められた「異性としての魅力」は、以下の三点に要約することができる。それは第一に、若々しく、美しくあることである。そのために具体的に求められたのは、着物や髪型、化粧など、身だしなみに手間をかけることであった。(略)第二に求められたのは、それなりの知性である。「それなりの」というのは、求められていたのが会話において夫を飽きさせない程度の知性・知識であったからだ。(略)第三に求められたのは、「可憐さ」、ときに「乙女の心」や「花嫁気分」、「子供らしさ」などと表現される可愛らしさの獲得である。(P.204-206)


愛されるために、若さと美しさを保ち、男性を脅かさない程度の知識をつけ、幼さや子供っぽさを強調する……なんだか既視感がありませんか? このモテテクが雑誌に掲載されてから80年余りがたち、令和という新しい元号になった現在においても、同様のアドバイスを目にする機会は少なくないように思います。


時代は変わっているのに、未だに、「女性は愛されてなんぼ・選ばれてなんぼ」という価値観を信じている人や、そういうことにしておいた方が得だと考える人は少なくないのでしょう。(これには、一向に縮まらない男女間の賃金差も影響していると考えられます)


ただし、「愛される」を目指すことは、女性にとって不利益を与えている面も否定できません。著者は、「愛される」ことの女性の役割化にともない、「女性はこうあるべき」という規範も強化されていったと指摘しています。


「愛されるため」というレトリックによって、女性たちは「良妻賢母」であることに加え、男性の目から見て「異性としての魅力」をもつことが求められていった。家事・育児にいそしむだけでなく、美しく、清潔に装うこと、可愛らしく無邪気であること、夫を会話によって楽しませることができること、そして、常に夫の性的関心をつなぎとめておけること。これらの要素が、新たに妻たちに求められていったのです。(P.234)


自分にとって幸せな生き方と、ほかの誰かにとって幸せな生き方は違う

幸せ

「恋愛を経て結婚・出産することこそが、女性にとって幸せな生き方だ」と、考える人は、未だに少なくありません。自分がその道を選んだ人ほど、盲目的に「これこそ正しい道」だと思い込んでしまいがちです。


実際には、仕事を楽しんでいる人、恋愛よりカルチャーに興味がある人、結婚しても子供をもたないという選択をする人、同性を恋愛対象とする人など、様々な人がいて、百人百様の幸せの形があります。


「恋愛を経て結婚・出産することが、女性にとって幸せな生き方だ」という価値観を自分以外の人も共有していると思い込んでしまっていたら、「恋愛したことがないの? かわいそう。いい人に出会ったら変わるって!」「子供はまだ?」「事実婚なんだ。籍入れてもらえないなんて、何か事情があるの?」など、無意識に失礼な発言をしてしまうことにもなりかねません。


私自身、彼氏がいたことがないという美女に、「もったいない!友達紹介してあげる」と言ってしまったことがあります。のちにその友達が恋愛にまったく興味がないということを知り、自分の視野の狭さを恥ずかしく思いました。


当たり前のことですが「恋愛至上主義」「母性中心主義」は、ひとつの思想であり、全員に当てはまる幸せの形ではありません。そのことには、自覚的であるべきでしょう。


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  • 今来 今 (フリーライター)

    神戸出身。編集者を経て現在フリーライター。複数メディアにて、映画評・書評・ルポなどを連載中。

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