
「絶対今日はこの服で!」そのこだわり、許せますか?
- 更新日:2019/07/02
- 公開日:2019/07/02
本人に選ばせると、私なら絶対そうは選ばない!というコーディネートになっていたりする我が子の服装。「私の趣味が悪いと思われる~」「派手好きだと思われる~」「洋服、その1着しか持ってないのかと疑われる~」など、自分自身のセンスが問われているようで、気が気じゃありません。
あみたんは、この12月で3歳。
前髪を切ることを了承するまで2年、快く髪を結ばせてくれるようになるまで2年10ヶ月と、触覚過敏のため頭部の急所を守ることこの上ない彼女。洋服選びにもたいへんなこだわりを持っています。「すると決めたら絶対そうする!」鉄の意志を持つ3歳児あみたんの、ドレスアップエピソードです。
CASE16:TPOに合せてドレスを選ぶ2歳児

かなり極端な例であると皆さん思われますかね。しかし実際こうした「身に着けるもの」へのこだわりはよく聞く話です。
あみたんの場合、ドレスの着用はあみたんなりのTPOへのこだわりではありますが、「普段着る服や履く靴をいつも同じものにしたい」という彼女の欲求は、感覚過敏が原因であるとも考えられます。
言って聞かせてどうにかなるものではない
例えば、衣類はどうしても綿でないとダメとか、麻の肌触りがどうしても馴染めないとか、掛け布団にはいつも同じカバーをしないと嫌だとか。実際には肌がかぶれたりはしなくとも、その人の感覚ではそれはどうしても受け入れがたい感覚なのだという理解が必要です。
特にこの触覚というものは、個人個人感じ方が大きく違います。これはしつけでなんとかなるものではありません。その時その瞬間に言い聞かせるといった方法では解決できないことなのです。
原始系>識別系、を、識別系>原始系に
痛み・温度・圧力などを感知している「触覚」が、肌触りなどを感じ取っています。
そして、感覚には、生命を維持するための「原始系(本能的)」と、世界を認知理解するための「識別系(認知的)」のふたつがあります。
原始系の反応は成長と共に見られなくなっていきますが、それは「識別系」のネットワークが働き出し「脳」の交通整理がされるようになったため。
目で見て認知する、触ってみて認知する、音で聞いて認知する。こうした「認知機能」=「識別系」のはたらきが優位にはたらくと、「原始系」の反射にブレーキがかかるのです。
感覚過敏の子どもたちに対しては、識別系の機能を高めること。これが解決のヒントです。(※)
具体的には、「その子が受け入れられる程度の圧迫刺激を入れてあげる」ことを、日常生活の中で心がけていくのです。
感覚過敏の子どもたちは、土を触ることが苦手だったり、粘土遊びを嫌がったりしますが、逆に水をずっと流しっぱなしにしてその手触りをずっと楽しむといったことをします。ある子は、お日さまのあたっているところの土と日陰の土を交互に触り、その温度の違いを何度も何度も味わっていました。
ひとつの感覚に抵抗を示しているからといってすべてのものがダメだというわけではありません。多種多様な刺激に触れる機会を作っていきましょう。
※参考:「保育者が知っておきたい発達が気になる子の感覚統合」著:木村順/協力:小黒早苗(GAKKEN)
「ハグ」の威力
また、子どもたちをぎゅうっと抱きしめてあげることも非常に有効です。この「ハグ」で圧をかけることや手をしっかりと握ることは、感覚過敏の子どもたちにとってとても効果的なはたらきかけとなります。
ハグしようとしたり手をつなごうとしたりして子どもにそっと触れると、子どもたちは身を固めてしまったり手を払いのけたりと、拒絶をする場合があります。これは、そのあとにどんな刺激が来るか予測がつかないので、防衛反応(原始系)がはたらいているだけ。その時に一歩踏み込んでぎゅっと抱きしめたり、しっかりと手を握り締めたりすると、「あ、抱きしめてくれたんだな」「手をつないでいるんだな」と、識別系の機能がはたらいてきます。そうすることで、原始系のはたらきが抑制されるのです。
その子にとって受け入れられる程度の圧迫刺激を日常的に入れましょう。ハグは、そもそもは圧迫刺激を入れるためだけでなく、「あなたを大切に思っているんだよ」「好きだよ」という気持ちを伝えるためのパワフルな方法でもあるのです。
こだわりの強さを力で屈服させることはタブー
子どもたちのこだわりや頑固さに見える行動を、その子の性格の問題ではなく、しつけや話し合いでどうにかなるものではないんだという理解がすすむと、お互いの関係が楽になります。
しかしながら、今回のあみたんのケースは感覚過敏というよりも、本人なりのTPOの判断による完全なるこだわり。こうした場合、私たちの心のセットアップが試される機会となりますよね。
無理やり着替えさせる、泣きわめいても着替えさせる、ひどく叱るなどの行為により、子どもたちにこちらの意見の強要を受け入れさせることもできなくはありません。しかし、こうした行為は互いに心の痛みを抱え続ける原因にしかなりません。
子どもたちがどうしても言うことを聞かない時、「言い聞かせるしかない」「言ってきかなければ実力行使するしかない」と思ってしまいがちですが、本当にそれ、そうするしかないことなのでしょうか。
そのルール、本当に必要か?
子どもたちとの付き合いにおいて、大人の側のルールやさせたいことが多ければ多いほど、大人自身がストレスを抱え自分も子どもも苦しめる結果になります。もしも今、一日のうちに10個やらせたいことや守らせたい決まりがあるのなら、それを2~3個にしてみましょう。ほんとは1個でもいいくらい(笑)
「その10個、本当にそうしなければいけないことなのかな」
そうやってぜひ、自分の決めたルールや社会の常識と言われるものを再検証してみる機会にしてみてください。
瞬間を味わう
さて、子どもと自分の関係性における課題は、発達症への理解や自分の固定観念を手放すことによって解決できましたが、その先にあるのが世間体。
近所をドレスの子どもが歩いていたとしたら……皆さんどんな風に感じますか?
自分のその感じ方が、そのまま世間のみんながどう思っているかという考えにつながっているということ。その世界観を持っているのは自分自身なのです。
自分の心のセットアップを、ちょっと緩めにしましょう。いいじゃないですか、雨の日にドレスの裾を引きずって歩いていようとも、あとで洗濯すれば。
そんなことよりも、そのドレスを着て雨の街を誇らしげに歩く瞬間を子どもたちと共に味わうことを、ぜひ選択してみてください。
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♯13:何度も何度も同じ本ばかり読むけれど、これって意味あるの?
♯12:発達症の子に、キレてもいいですか? ~子どもにイラっとしてしまったら
#11:質問魔のわが子、ほんとに疲れる…どこまでも答えなきゃダメ?
のじゃ塾とは?
幼児から大人まで通える療育塾。
発達症、発達症のボーダー、学校や家庭での問題行動全般、不登校、拒食症、統合失調、ダウン症など、子どもたちに同じケースはひとつとしてありません。 自宅の一室で、「語らい」や「遊び」「学び」の中から発見される子どもたちの心の声を聴きながら、ひとりひとりに、オーダーメイドな授業、教育カウンセリングを実践しています。また、のじゃ塾の療育メソッドをもとに、感覚統合を促進させる運動療育チーム「まなまりんManaMarine」を発足。
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いしづかみほ
(学習・療育のじゃ塾塾長/日本子ども虐待防止学会会員/イラストレーター)
「子どもたちが本来持っている才能を存分に発揮できるよう双方向で作る授業」と「彼らのありのままを理解する教育カウンセリング」を軸とした療育を実践しています。
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