セクハラ

セクハラにNO!と言えなかったのはナゼ?自分を責める前に知ってほしい話

  • 更新日:2019/11/08

セクシャル・ハラスメント、略してセクハラは、1980年末に登場した新しい言葉で、1989年には、ユーキャン新語・流行語大賞の金賞を受賞しました。


新語・流行語は、一時期流行っても、その後、廃れていくものがほとんどですが、ご存知のように、セクハラに関してはそうはならず、令和に入った現在でも「誰もが知っている言葉」として市民権を得ています。


セクハラという言葉が廃れないのは、残念なことですが、性的なハラスメントが、多くの人にとって身近なもの・よくあることだからでしょう。


なぜ、ここまでセクハラという言葉が浸透し、セクハラしてはいけない、訴えられる可能性がある、と皆が知っているのに、セクハラで告発される男性は後を絶たないのでしょうか? (女性もセクハラの加害者になることはありますが、現時点では、大多数の加害者は男性なので、今回の記事では、男性のセクハラ加害についてのみ取り上げます)。


それは、加害者と被害者の間に認識の相違があるからです。加害者は、恋愛しているつもり、親しい間柄のコミュニケーションのつもりでも、被害者はセクハラされている、と感じることが往々にしてあります。加害者は、「嫌がっているように見えなかった。NOと言っていなかった」と主張することもあります。


実際、セクハラにあったとき、NO!と拒絶することができない女性は少なくありません。なぜ、女性はセクハラ被害にあったとき拒絶できないのでしょうか。

今回は、研究者で、日本で初めてセクハラを不当な人権侵害として訴え、セクハラ裁判第1号となった福岡セクハラ訴訟(1989年。1992年、原告側勝訴判決)に深く関わった経験もある、牟田和恵さん著『部長、その恋愛はセクハラです!』(集英社)を参考に、なぜ女性はセクハラにNOと言うことができないケースが多いのか、を解説していきます。


なぜ女性はセクハラにNOが言えないのか

セクハラにNO

性的な冗談をしつこく言われたり、体を触られたりしたとき、即座に「触んなよ、キモいんだよ! 訴えるからな!」と言える女性はどのくらいいるでしょうか? 自分とはなんの関係性もない変質者になら言えるかもしれませんが、派遣先の上司、尊敬する研究室の先生など、上下関係、権力関係がはっきりしている場合、NOを決然と言うことができる人は少ないでしょう。


1報復を恐れて、NOが言えない

まずは、断ること、不快感を示すことで、報復があるかもしれない、という恐れがでてきます。たとえば、派遣先の上司からのふたりだけのご飯の誘い。「派遣期間が満了したら正社員になるという話もあった、この誘いを無下に断ると、仕事を失ってしまうかも」と思ったら強くは言えないでしょう。クビになったり、あからさまな嫌がらせをされる、とまではいかなくても、気まずい雰囲気ができてしまい、仕事がしにくくなったり、大学の研究室であれば、指導してもらいにくくなる可能性もあります。


上司や指導教授に、悪い感情を持たれるのは自分にとって損であり、ときには自分の望む進路が絶たれてしまう可能性もあるのですから、NOと言うのにためらいを感じるのは当然でしょう。


2女性は、何も言わないことでNOを示そうとしがち

また、牟田さんは、「NOが言いにくいこと、はっきりしたかたちではなかなかNOが言えないことは、報復の恐れを計算する前に、多くの女性たちに埋め込まれている反応でもある」と指摘しています。


女性が「はっきりとノーが言えない」のは、洋の東西を問いません。アメリカのセクハラ問題のパイオニアであるフェミニスト法学者キャサリン・マッキノンは、「ナゼ女性ははっきりとノーを言わないのか」という問題について、望まない、あるいは不快な性的な誘いや働きかけに、「逆らわずにいる」ことで女性は拒否のメッセージをあらわそうとする傾向を持っていると指摘しています。(第4章)


たとえば、デートの誘いを上司から受けた場合、その場は笑顔でかわして、はっきりと答えず、デートの誘いに乗らないことで、やめてほしい、ということを表現しようとしがちです。ですが、牟田さんによると、こういった無言のNOのメッセージは男性には、ほぼ間違いなく伝わらないそうです。それどころか、女性の「感じのよい沈黙」を、「次の自分の押しを待っている、女性らしい控えめさ」だと勘違いする男性も多いと言います。


3ジェンダーによる言葉のしばり

何も言わないことでNOを表現しようとしても男性はほぼ気がつかない、となれば、女性が決然とNOを言うことが大切であることは明白でしょう。ですが、これは簡単なことではありません。


なぜなら、「女性の言葉は、ジェンダーによってしばられている」からです。


とくに女性の場合は、子供のときから「素直で優しく」と教え込まれます。そして相手に対する気配り、情緒的配慮、相手の意に沿い感じ良いと思われる態度を身につけていくのです。しかもそもそも、はっきりと「ノー」と伝える言葉を日本の女性たちは持ちません。(略)たとえば電車で痴漢に遭った女性がどういう言葉を発するか考えてみてください。(略)「やめてください」「やめて」と言うのが関の山でしょう。でも、「やめてください」は、決して「ノー!」「やめなさい!」ではありません。命令ではなく依頼、礼儀正しいお願いです。(略)女性が電車の中で、「やめろ!」とドスの利いた声で怒鳴ったら、周囲は、女性の被害に同情するよりも、なんと非常識な女性かと呆れるに違いありません。ここから見えてくるのは、日頃は気づかない、ジェンダーによる言葉の縛りです。(第4章)


「女らしい言葉」では、きっぱりNOと言うことができません。「女らしい言葉遣い」は一見、良い言葉遣いのように思えますが、NOと言うべき時に、きっぱりとNOを突きつけることのできない、脆弱な言葉とも言えるのです。


女性がNO!と言えない理由はたくさんある。NOと言えなくてもセクハラはセクハラ

ストップセクハラ

これまで説明してきたように、女性がセクハラに対してNOと言えない理由はたくさんあります。


このほかにも、尊敬している上司や先生からのセクハラであるため、「まさか、この人がセクハラなんてするはずがない」と事実を否認したい気持ちが働き、きっぱりNOと言えなくなってしまう、というケースもあります。


その場でNOと言うことは、セクハラ被害の拡大を防ぐためにも大切なことですが、前述した様々な理由からNOと言えないことは、ある意味仕方がないことなのです。


牟田さんは、本書のなかで、「NOと言わなかった」「抵抗しなかった」としても、性的行為に合意したというわけではなく、セクハラを訴えることはできる、と繰り返し述べられています。NOと言えずにセクハラ被害に遭ってしまった女性は、「あのとき断れていたら」「自分が曖昧な態度をとってしまったから」と自分を責めてしまいがちです。ですが、そこに権力関係があったなら、それはまぎれもないセクハラなのです。


本書は、知らずにセクハラ加害してしまう可能性の高い、中高年男性向けに書かれたものですが、女性が読んでも役立つ情報が盛りだくさんです。セクハラについてより詳しく知り、セクハラ被害・加害を防ぎたいという方は、ぜひご一読ください。



▼参考書


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  • 今来 今 (フリーライター)

    神戸出身。編集者を経て現在フリーライター。複数メディアにて、映画評・書評・ルポなどを連載中。

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