
アルコール・ハラスメントって?その意味と言動を弁護士に聞いてみた
- 更新日:2019/09/24
- 公開日:2019/09/24
「飲みにケーション」 という言葉を聞いたことはありますよね?特に日本では、職場内外を問わず、仲間同士の絆を深めたり人間関係を円滑にしたりするために、酒席でコミュニケーションが取られることが多いです。
でも、皆さんの中にも、例えば、上司から酒席への参加を強制されて嫌な思いをした人や、飲みの誘いを断ったら付き合いの悪い人というレッテルを貼られてしまった人がいるのではないかと思います。
特に、昔も今も、先輩や上司からお酒の一気飲みを強要されて、急性アルコール中毒により死亡してしまうという事例があることは、皆さんもご存じではないでしょうか。
最近では、「アルコール・ハラスメント」 (アルハラ) という言葉が定着してきていますが、そもそも「アルハラ」 って具体的にどのような言動を指し、どのような問題があるのでしょうか?
今回は、「アルコール・ハラスメント」 (アルハラ) の意味や、「アルハラ」 に当たる言動の具体例、その解決方法などについて、解説していこうと思います。
「アルコール・ハラスメント」 (アルハラ) っていったい何?

「アルコール・ハラスメント」 (アルハラ) は、一般的に、相手の意に反して飲酒を強要するなどし、相手に肉体的・精神的な苦痛を与える言動全般を言いますが、実は、これといった明確な定義が決まっているわけではありません。
もっとも、特定非営利活動法人アスク(アルコール薬物問題全国市民協会)のホームページによれば、アルハラには、以下の5つの類型があるとされています 。
①飲酒の強要
例えば、職場での上下関係や、部活動の伝統、集団による囃し立て、罰ゲームなどといった形で心理的な圧力をかけ、お酒を飲まざるを得ない状況に追い込んでしまうことです。
②一気飲ませ
例えば、場を盛り上げるために、一気飲みや早飲み競争などをさせることです。「イッキ!イッキ!」 といった掛け声を使っていなくても、一息で飲み干すよう促したり、何杯も立て続けに飲ませるような言動は、これに当たります。
③意図的な良いつぶし
例えば、酔いつぶすことを意図して、飲み会を行うことです。このような行動は、場合によっては刑法上の傷害罪にも当たりかねません。特に酷いケースでは、吐くための袋やバケツをあらかじめ準備したり、「つぶれ部屋」 を用意したりしていることもあり、悪質です。
④飲めない人への配慮を欠くこと
例えば、本人の体質や意向を無視して飲酒を勧める、宴会に酒類以外の飲み物を用意しない、飲めないことをからかったり侮辱したりするなどの行動が、これに当たります。
⑤酔った上での迷惑行為
例えば、酔って人に絡む、酔って悪ふざけをする、酔って暴言・暴力を振るう、酔ってセクハラ行為をするなどのひんしゅく行為が、これに当たります。
アルハラにはどんなリスクがあるの?

アルハラ行為により相手に肉体的・精神的苦痛を与えた場合には、民事上の不法行為責任(民法第709条) が成立し、損害賠償責任を負うことがあります。アルハラ行為自体を行った人だけではなく、アルハラ行為をさせたり止めなかったりした人も、民事上の共同不法行為責任(民法第719条) が成立し、同じように損害賠償責任を負うこともあるのです。
また、アルハラ行為を行ってしまった人は、刑法上の犯罪が成立して処罰される可能性もあります。
例えば、アルハラ行為により、強要罪(刑法第223条・法定刑は3年以下の懲役) や過失傷害罪(刑法第209条・30万円以下の罰金又は科料) 、傷害罪(刑法第204条・法定刑は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金) の成立が考えられます。
アルハラ行為により人を死亡させてしまった場合には、傷害致死罪(刑法第205条・法定刑は3年以上の懲役) の成立が考えられますし、酔いつぶれた人を放置して死亡させたような場合には、保護責任者遺棄致死罪(刑法第219条・法定刑は3年以上20年以下の懲役) の成立も考えられます。
さらに、アルハラ行為をさせたり止めなかったりした人も、以上の犯罪の共犯(刑法第60条) や幇助犯(刑法第62条) が成立し、同じように処罰されることもあります。
このように、アルハラには、非常に重いリスクが伴っているのです。
アルハラの予防・解決方法

では、アルハラ問題については、どのように予防・解決すれば良いのでしょうか?
以下では、相談窓口や解決に向けた注意点をお話します。
アルハラ防止の6つのポイント
前述のアスクのホームページによれば、アルハラを防止するためには、以下の6つの重要なポイントがあります。
①組織ぐるみの飲酒の強要を絶対に許さない態度を示す
特に、新人歓迎行事と、連帯感が強く上下関係に厳しい組織(寮・クラブなど) に、生命にかかわるアルハラが生じやすいので、一気飲ませや新人つぶしなどの「伝統」 は即刻やめるよう警告するなどの姿勢を示すことが重要です。
②アルハラは生命にかかわることを知らせる
急性アルコール中毒や飲酒後の事故が、死と直結する危険性を持っていることを十分に知ってもらうことが重要です。酒に強くても急性アルコール中毒になることはありますし、吐かせれば安全というのは大間違いであり、実は吐物吸引窒息の事例が多いこと酔いつぶしは、昏睡状態を「酔って寝ている」 と誤認するおそれがあること等を知っておくことも大切です。
③「固定観念」 を打破し、正しい認識を普及する
飲む飲まないは個人の自由であること、体質的に飲めない人やアルコール依存症などで飲んではいけない人がいることを認識してもらうことも重要です。また女性だからとお酌をさせる慣習も改め、セクハラが起きた場合は、「酒の上」 という口実を許さずにしっかり責任をとらせる必要があります。
④飲めない人に配慮する
飲めないことを侮辱したり、無理強いしたり、知らぬ間にアルコールをコップに入れるなどの行為は止めましょう。また、会席にはアルコール以外の選択肢を用意するのがルールです。
⑤未成年者には飲ませない
現在、未成年者飲酒禁止法の罰則の強化が検討されています。酒販店や飲食店が罰せられるのはもちろん、保護者(上司や教職員も含まれる) も当然罰則の対象となりますので、十分に認識しておく必要があります。
⑥「主催者・幹事の責任」 を明確にする
酔いつぶれた人が出た場合は、絶対に1人にせず救急医療につなげるなど、特に主催者や幹事には保護責任が生じることを認識しなければなりません。
(引用:特定非営利活動法人アスク アルハラ防止6つのポイント)
上司・同僚、家族・友人、NPO等に相談する
もし信頼できるのであれば、上司や同僚に相談するのは効果的でしょう。アルハラのリスクを十分に認識してもらった上で、今後は同様のアルハラ被害が生じないように取り計らってくれることも期待できます。ただ、上司も同僚もあくまで組織の一員ですので、信頼に値するかどうか見極めることが重要です。
また、アルハラ被害をもっとも心配してくれるのは家族であり友人であると思います。気が進まないかもしれませんが、大切なのは、味方をたくさん増やすことです。
さらに、前述のアスクなどのNPO団体や、会社での問題であれば労働局等に相談することも、効果的な解決方法となり得るでしょう。
弁護士に相談して法的手段に訴える
弁護士に相談して、法的手段により戦うという方法もあります。その場合には、アルハラの事実を立証するに足りる十分な証拠が必要となりますので、酒席での会話を録音したり、日々のアルハラの事実を手帳などに詳細にメモしたり、同席していた同僚や友人などの第三者の協力を得られるようにしたり、医師の診断書を用意したりする必要があります。
ただ、弁護士に依頼する以上、相応の弁護士費用を支払わなければなりません。

アルハラは、従来からの古い「伝統」 や「固定観念」 から引き起こされるものですが、毎年のように、急性アルコール中毒による死亡事故が報道されるなど、人の生命を奪いかねない深刻な問題です。飲み会の場で親睦を深め盛り上がるのは構いませんが、アルハラのリスクを参加者全員が共有し、節度を持って楽しむこと、お酒を飲めない人も楽しめるような場にすることが大切だと考えます。
アルハラ被害にあったら、一人で思い悩まずに、また、泣き寝入りして被害が拡大しないように、まずは信頼できる上司・同僚、友人、場合によっては弁護士に相談することをお勧めします。
■弁護士に聞いてみた|バックナンバー
・アカデミック・ハラスメントってなに?〜その意味と言動について・ジェンダー・ハラスメントってなに?を弁護士に聞いてみた
・マタハラ被害を訴えたい!マタハラ被害に対して何を請求できるの?
・そのマタハラは法律違反です!マタハラに関する法制度・法規定
・マタハラのタイプと被害の実態について弁護士に聞いてみた

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田中雅大
(弁護士/第二東京弁護士会所属)
1975年生まれ。埼玉県出身。証券会社に勤務した後、2010年に弁護士登録。中小企業の法務や不動産案件を中心に扱いつつ離婚や不倫などに関する数々の男女トラブルを解決。趣味はサーフィン、草野球。
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