未婚女性

30代以上・未婚・子ナシは負け?男版『負け犬の遠吠え』がない理由は?

  • 更新日:2019/06/14

『負け犬の遠吠え』(2003年・講談社)は、30万部を超えるベストセラーを記録したエッセイ集です。

著者である酒井順子さんが、30代以上・未婚・子ナシの女性を「負け犬」と定義し、面白おかしく綴った本作は、社会現象とも言える盛り上がりを見せました。

それから約15年の月日が流れ、30代以上で未婚で子供のいない女性は、ますます増加しています。同時に、30代以上で未婚で子供のいない男性も増えています。


ですが、男性版の「負け犬」の生態を、ユーモアを交えて描写したような書籍は発売される気配はありません。なぜでしょうか?


『負け犬の遠吠え』が女性たちから支持された理由とは?

『負け犬の遠吠え』は、未婚・子ナシの30代以上の女性を「負け犬」、それ以外の女性のことを「勝ち犬」と表現したことで、論争を呼びました。

「結婚や出産をしていないだけで負け犬だなんて!」という意見も出たわけですが、こういった意見は、本書を読んでいない人からのものではないかと思います。


なぜなら、自称「負け犬」の酒井さん自身が、実際に自分の生き方がダメで負けているとは露ほども考えていないことは、本書を読んだら一目瞭然だからです。本書では、「人生を楽しんでいるのに、世間からは結婚や子育てをした方がいいというプレッシャーをかけられている。してないだけで見下されることもある」という構図が、皮肉とユーモアたっぷりに描かれています。


『負け犬の遠吠え』は、「日々感じている苛立たしい構図」を明確に示してくれたために、結婚や出産に関する世間からの目に日々フラストレーションを感じている女性たちから、「よくぞ言ってくれた」と称賛されたのです。


『負け犬の遠吠え』の男性版が発売されないのはなぜ?

独身男性

ところで、女性の未婚・子ナシが増えているということは、男性の未婚・子ナシも増えているということです。

それなのになぜ、男性の未婚・子ナシ・30代以上についてユーモアを持って描く書籍は発売されないのでしょうか?


東京大学の教授である上野千鶴子さんは著書『女たちのサバイバル作戦』(2013年・文藝春秋)で、その理由を、「オス負け犬は、徹底的に『負けて』いるために、もはや笑いの対象ともならないという厳しい現実があるから」だと分析しています。


女性の「未婚・子ナシ」は、酒井さんのように高収入で自立していてる、または収入が高くなくとも家族や友達に支えられている、という状況があり得るのに比べて、男性の「未婚・子ナシ」は、経済的にも苦しく、社会的にも孤立していることが多いから、というのが上野さんの主張です。


実際、結婚と経済力の関係は、男女で大きな差があります。

男性の収入と既婚率とのあいだにははっきりした相関があります。ホリエモンが豪語したとおり、「女はカネについてくる」というのは、一面の真理でもあります。また収入の格差は雇用形態の格差とも結びついていますから、正規雇用と非正規雇用とのあいだでも、男性の結婚率にはっきりした差があります。「婚活」にはげむ女性のあいだでも、非正規雇用の男性は対象に入りません。(P.183)


共働き家庭が専業主婦家庭を上回っている現代においても、性別役割規範や男女の収入格差などの点から、「一家の大黒柱は男性であることが望ましい」と考える女性は少なくありません。結婚相談所や婚活パーティーでも、男性側は年収の記載が義務付けられているけれど、女性側は記載欄なし、というのが一般的です。

男性の場合、年収や雇用形態が婚姻できるか否かに大きく影響を及ぼしているという事実は明白です。


低収入で、結婚していなくとも、友達がいたり趣味が充実していたりしたら、本人に「負け感」はないのかもしれませんが、男性の場合、女性に比べて「同性の友達を作りにくい」という問題点も『女たちのサバイバル作戦』では指摘されています。


同様の指摘は、社会学者の山田昌弘さん著『モテる構造』(2016年・筑摩書房)でもなされています。山田さんは以下のように指摘しています。


男性同士の友情と呼ばれるものは、通常、この力関係が同等と認め合ったもの同士に成立する。男性同士で、同級生や同期であることが重視されるのは、このためである。二人の「力=社会的地位」が離れていると、いくら趣味や性格が一致していても、なかなか対等な友人関係になりにくい。(第1章)


女性は、社会的な地位や経済力などが異なっても対等な友達になりやすいのに比べて、男性は同等でなければ友人関係を築きにくく、そのため、友達を作ることが女性に比べて困難だというのです。

また、「男性に対する男女からの評価」は、勝ち組と負け組がはっきり分かれやすい、という点も指摘しています。


男性に人気がある(自分がこうありたいと思う)男性は、女性にも人気があるが、女性に人気がある女性は、男性に人気があるとは限らない。男性に対する両性の評価基準は、ほぼ一致するが、女性に対する評価基準は、男女で大きく異なっているからである。(第1章)


つまり、男性が結婚できないという「負け」を感じたときは、収入や社会的地位・男性からの眼差し・といった点でも負けを感じることになり、女性よりも「徹底的に負けた」感を抱かずにはいられなくなる構造がある、というわけです。


さいごに。未婚・子ナシの30代男性は笑える「負け犬」だと思いますか?

本

男性版『負け犬の遠吠え』本が発売されない・需要がない理由として、上野さんは、「男性の『負け犬』には徹底的な負け感があるため笑えないから」だと主張しています。


本書では、「男性に選ばれることが女性のアイデンティティの核になっているため、女性の場合、結婚や出産が勝ち負けにつながりやすい。しかし、男性の場合は女性から選ばれて結婚や育児をしたいという希望を持ちにくい。それゆえ、男性版『負け犬の遠吠え』本が発売されないのでは」という説も紹介されています。(上野さん自身はこの説には懐疑的です)。


あなたはなぜ、未婚・子ナシの30代男性の自虐風エッセイがベストセラーにならないのだと思いますか? この問題について考えることは、結婚・出産に対する男女に向けられる期待の違いや、男女に向けられるプレッシャーに基づく生き辛さの違いについて、自分なりの見解を深めるきっかけになるのではないかと思います。



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  • 今来 今 (フリーライター)

    神戸出身。編集者を経て現在フリーライター。複数メディアにて、映画評・書評・ルポなどを連載中。

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