ハイヒール

ハイヒールが好き。でもヒールがなかったら、もっと遠くまで行けるかも

  • 更新日:2019/05/31

つい最近まで、私は、ハイヒール至上主義者でした。

ハイヒールでカツカツ歩くのってかっこよくて素敵だと思っていたし、スニーカーなんて一足も持っていませんでした。


ですが、近年のカジュアルブームの波にのり、一足買ってみたところ、それ以来、ほぼ毎日のようにスニーカーを履くようになってしまいました。だって、めちゃめちゃ楽なんですもん!


「ハイヒール=綺麗なお姉さん」と思い込んでいた

ハイヒールを履く女性

多くの女性と同じように、私もこれまで幾度となくハイヒールに苦しめられてきました。


飾って眺めておきたいほど美しいハイヒールは、長時間歩くのには適していないと分かりつつデートの際に履いてしまい、途中から「足が痛い。早く帰りたい」としか考えられなくなったり、靴ずれで血まみれになってしまったりしたことも一度や二度ではありません。


今から振り返って考えてみると、「なぜそこまでして、ハイヒールを履き続けたのか。誰にも強要されたわけではないのに」と思うのですが、高校生・大学生時代コンサバ雑誌を愛読していた私は、「ヒールこそ正義」であり、「綺麗なお姉さんはハイヒールを履くもの」だと思い込んでしまっていたのです。


かつてハイヒールは、男性が「履きたい」と熱望していた

男性ハイヒール

実際、今でもハイヒール=大人の女性、というイメージを抱く人は多いのではないでしょうか? ですが、かつてハイヒールは、「男性が履きたいと熱望するアイテム」だったのです。


ここからは、『ジェンダーで学ぶ社会学』(世界思想社)を参考に、ハイヒールの歴史について概観していきます。

本書によると、近代以前は、ハイヒールは男女ともに履くことができ、「とくに男性が誇らしげに履くものだった」といいます。


バーナード・ルドルフスキー(※1)は当時のハイヒールを「男性的な魅力」を見せつけるものととらえて、「男たちのはいているハイヒールをみて、ご婦人方はふりかえったことであろう」と述べているくらいだ。また、フランス国王ルイ十四世のエピソードも有名であろう。太陽王と称された最高の権力者だった彼は、曲線美を自慢しようとして、かかとを赤く染めたヒールの靴を履いていた。(P.176)


近代以前の男性にとって、ハイヒールを含む装飾品は、自らの権力を示す道具だと考えられており、身分の高い人しかヒールを履くことができなかったのです。とくにルイ十四世の赤いハイヒールはあまりにも人気だったため、偽物が出回ったほどだとか。


権力者の男性が、現代の女性がルブタンの赤い靴底に憧れて模造品を購入するがごとく、ヒールに熱を上げていたというエピソードは、「女らしさ・男らしさ」がいかに普遍性のないものか、を象徴するエピソードではないかと思います。


ヒールが「女性らしいもの」になったのはなんで?

女性クツ

ところで、なぜかつて男性の権力の象徴だったハイヒールが女性のものとみなされるようになったのでしょうか?


転機は近代化による男性の服装の簡素化でした。十九世紀に貴族に変わって台頭してきたブルジョワジー(市民階級)は、貴族的な価値観を破壊しようとして、男性服はモノトーンで飾り気のないものに変わっていったといいます。

しかし、女性の服も同時に飾り気のないものに変わっていく…とは、なりませんでした。女性の服は相変わらず華やかであり続けたのです。


ブルジョワジーの男性は、自分たちの服装を「富」や「地位」の記号にしなかったぶん、その役割を女性に託すことになったのであった。着飾った女性をかたわらにおくことで、男性は自分の力を示そうとしたのである。(略)アン・ホランダー(※2)は、近代以前は男性も女性も外見を飾りたてていたが、近代以降では女性だけが装飾に固執する特権をもち、また装飾を義務とするようになったと指摘している。(P.178)


「女性の仕事靴はヒール」が当たり前ではなくなる日は近い?

シューズショップ

今回ご紹介した通り、ハイヒールはそもそも権力の誇示を目的とし、男女ともに利用していた装飾品でした。そして、近代以降は、男性の権力を示すために女性に求められたもの、に変わっていったのです。


今はどうでしょう? 今現在ハイヒールを好んで履いている女性たちが、「そばにいる男性の権力を示そう」なんて考えてはいないことは明らかです。メディアから発信される様々な印象によって、「ハイヒールってきれい・かっこいい・かわいい」と感じて、履きたいと感じるようになったのでしょう。


私もそのひとりでした。ただ、今過去を振り返って、「あの苦労してヒールの痛みに耐えていた時間、ほんと無駄だったな」と思います。今でもかわいいハイヒールがあったら購入していますし、ヒールのある靴は好きですが、「絶対ハイヒール」と考えて、自分の行動範囲を制限してしまうのはとってももったいないと思います。


ましてや、行動範囲を制限する可能性があり、足に負荷をかけるヒールを、女性だからという理由で、誰かに強要されることはあってはならないことだと思います。


2015年、女優のニコラ・ソープさんが、「ハイヒールを履くことを拒否したという理由で解雇された」ことを告発したことで、職場での性差別を是正すべく英国下院で審議が行われました。(※3)日本では今年、グラビア女優でライターの石川優実さんが、「職場でのパンプスやヒールのある靴の着用の強要」に異議を唱え、署名活動を開始しています。(※4)


女性がヒールの苦痛から解放される日は、そう遠くはないのかもしれません。


さいごに。ヒールを脱いだら、遠くまで行ける

スニーカー

冒頭で、私はあえて「スニーカーばかり履くようになってしまった」とまるでそれが悪いことのような書き方をしました。実際、私は「ヒールをやめるなんて、終わりの始まりでは」と思っていたのです。ヒールを履かなくなったことをきっかけに、「みなりを構わないおばさんになってしまうのではないか」「女性なら、ハイヒールを履いて着飾った方がいいのでは」と思い込んでいたのです。


でもそれって、時代や文化によって変わる女らしさの規範に縛られていただけなんですよね。それに気づいて以来、街歩きが趣味のひとつに加わりました。歩きやすい靴最高!



▼参考


※1 バーナード・ルドルフスキー
ウィーンの建築家


※2 アン・ホランダー
アメリカの歴史家


※3 parliament.uk

※4 chang.org



▼バックナンバーはこちら

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  • 今来 今 (フリーライター)

    神戸出身。編集者を経て現在フリーライター。複数メディアにて、映画評・書評・ルポなどを連載中。

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