母と娘

【小説】ジユウな母とオクビョウな私 #22 ベランダの鳩(22)

  • 更新日:2019/06/06

« 前回から読む

#22 ベランダの鳩(22)

 昭和の景色を再現したのだろう。

 白い電球の下がった店内は、遊園地のアトラクションか、映画のセットみたいに装飾されていた。

 壁をデコって作った、おんぼろな「木造家屋」のあいだ、裏の路地を進んで行くような通路の両側に、客用のテーブルが並んでいる。外観だけとはいえ、「家」にはきちんとひさしがあり、雨どいがあり、下のほうにさびたトタン板が巻きつけてあり、すりガラスのはまった窓があり、レトロな雰囲気のポスターや看板が、あちこちに貼りつけてある。

 テーブルにつくと、太陽はさっそくお酒ともんじゃを注文した。こちらもおんぼろ風に作られた木のテーブルには、脇に電気スイッチのついた、よく磨かれた鉄板がはめ込まれている。

「俺、得意なんだよ。見てなよ」

 もんじゃを焼いたのは太陽だった。最初に具材だけ鉄板にのせて、へらで炒める。大きな鉄べら二本でしつこいほどにカチカチ、カチカチと鉄板を鳴らすと、

「長くない? 大丈夫?」

 美香ちゃんが心配そうに言う。もちろん太陽は動じなかった。

「いーんだよ、これが俺流」

 ようやく炒め終えたキャベツと他の具材で丸く土手を作って、そこに器に残っていた汁を流し込むと、あっさり土手が決壊。「あちゃー」「なんか失敗っぽい」「まだ汁いっぱいあるよ」と三人が笑って、太陽も笑いながら、無理矢理に汁を土手の内側に戻し、さらに残りの汁をこわごわ足し、ぐつぐつするのを待って全体をかき混ぜる。

 そして端が焦げれば食べ頃のようだった。

「よし! こごみ、食べてみなよ。絶対、月島のよりうまいから」

 太陽に熱心に勧められて、私が一番に、はがし、と呼ばれる小べらでもんじゃの端を削り取った。ふー、とひと吹きしてそれを口に運ぶ。明太子とチーズとお餅の入った、お店の一番人気らしいメニューだった。だしがよく効いている。

「美味しい」

 素直に感想を言うと、

「やった!」

 と昔なじみの青年は喜んだ。美香ちゃんたちも続けて食べ、たしかに美味しいと言う。太陽本人も、はがしを口に運ぶと、うまーい、と大きく叫んだ。

「な、月島のもんじゃと比べてどう? 月島のよりうまい?」

 よほど「俺流」の成功が嬉しかったのか、太陽がしつこく訊く。私は正直に言うことにした。

「私……まだ月島でもんじゃ食べたことない」

「なにそれ」「なーん」「嘘!」と三人が口々に言い、呆れたように笑った。


(つづく)



NEXT » ベランダの鳩(23)



« 小説を1話から読む

■ジユウな母とオクビョウな私|バックナンバー

第17話:ベランダの鳩(17)


第18話:ベランダの鳩(18)


第19話:ベランダの鳩(19)


第20話:ベランダの鳩(20)


第21話:ベランダの鳩(21)



  • 藤野千夜 (小説家)

    1962年2月生まれの魚座のB型。 2000年に『夏の約束』で芥川賞受賞。 著書に『ルート225』『君のいた日々』『時穴みみか』『すしそばてんぷら』『編集ども集まれ!』など。

この記事がいいと思ったら
いいね!しよう

Related関連記事

Pick Up編集部ピックアップ

Rankingランキング

#tag