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【小説】ジユウな母とオクビョウな私 #15ベランダの鳩(15)

母と娘
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「じゃあ、そうするよ。行こう、俺の部屋」


 くにちゃんに声をかけたわらびを、


「それはダメ~」


 母がやんわりと制した。自分はいろいろとだらしないタイプなのに、息子が彼女と一緒に寝るのは認められないらしい。ちょっと不思議。妙なところで堅苦しい。


「そんなら、母さんと姉ちゃんが一緒に寝れば?」


 わらびの第二案は、これもまた本気とは思えない。いつ見てもショップのバックヤードみたいに、モノであふれ返ったのが母の寝室だった。一体なにが入っているのか、天井近くまで積み上げられた箱だの、収納のための棚だのが動線をふさぎ、仕舞わずハンガーにかけっぱなしの洋服が目隠しをする。


「わかった」


 私はうなずき、最初の母の提案通り、自分のベッドをくにちゃんに譲って、テレビの前で休むことにした。ダイニングを兼ねたリビングには、そこくらいしか横になれるようなスペースはない。


「いやいやいや、私がそこでいいよ」


 恐縮するくにちゃんに、


「ううん。遠慮しないで。お客さんでしょ」


 と伝えた。ほんのり酔って、母と弟に対して拗ねた気分になった私にも、さすがにそういった分別はある。

 ひとまず自分の部屋で寝間着に着替えると、覆面レスラーのマットのある洗面所で顔を洗い、歯を磨く。大きなクッションを居間のホットカーペットの上に置き、それを枕にすると、運んできた自分の毛布にくるまって目を閉じる。


「おやすみ」


 母の声が聞こえたので目を薄く開け、


「おやすみ」


 応じると、それを合図のように居間の電気が消えた。

 ふいに心細い、ひな鳥のような気分になる。

 母に頼るしかなかった、幼い頃の記憶でもよみがえったのだろうか。

 それとも急ごしらえの寝場所に横たわって、まだ見ていない、ベランダの鳩の巣を想像したのだろうか。


 朝、目覚めると外はいいお天気だった。

 さっそくベランダへ出ると、空色のサンダルをぺたぺたと鳴らして物干し場の向こうへ進む。床置きされた室外機の陰をおそるおそる覗き込んだ。

 なかなか見えづらい位置だから、いつの間にか巣を作られたのだろう。うっかりした話だけれど、まあ仕方がない。

 そーっと身を伸ばすと、あった。

 風にでも吹き寄せられたように、ごっちゃり重なっている木の枝が見える。

 それが巣だった。真ん中に、予想したよりずっと生々しいヒナの姿がある。


 ひっ。私はあとずさった。まばらに毛の生えた、丸っこいヒナたちだった。


 あれが、私とわらび?

 やばすぎる。


 しかも週のはじめにメールで送られてきた写真よりも、たぶん大きくなっている……。


(つづく)



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第10話:ベランダの鳩(10)


第11話:ベランダの鳩(11)


第12話:ベランダの鳩(12)


第13話:ベランダの鳩(13)


第14話:ベランダの鳩(14)



  • 藤野千夜 (小説家)

    1962年2月生まれの魚座のB型。 2000年に『夏の約束』で芥川賞受賞。 著書に『ルート225』『君のいた日々』『時穴みみか』『すしそばてんぷら』『編集ども集まれ!』など。

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