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【小説】ジユウな母とオクビョウな私 #13ベランダの鳩(13)

母と娘
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 母の新しい恋人が、大学の先生らしい。


 適当でゆるい母と、学問の研究者のカップルだ。意外と言えば意外な組み合わせなのだけれど、自分の学校時代を思い返せば、勉強に真面目すぎる人というのも、ある意味で変人なのかもしれない。


「こごみちゃん、やってないの。ポケモンGO」


 自称、ポケモントレーナーのさとしさんは、にこにこと言った。だいたい五十歳過ぎに見えるさとしさんは、未婚なのか、離婚経験者なのか。それとも現在進行形で妻帯者なのか。


「やってません」


 私はきっぱり答えた。


「じゃあ、なにか他のゲームとかやるの?」


「それもべつに」


「やればいいのに、ポケモン。楽しいよ」


 母が口を挟んだ。世間で流行したのが二年前とは思えない。今がブームという口ぶりだった。


「こごみちゃんはなんだか慎重なのよ。ゲームなんだから、とりあえずやってみて、つまんなかったり、飽きたらやめればいいだけなのに、ぶつぶつ、ぶつぶつ」


 そう言う母は世代でもないくせに、そのゲームをはじめてから、急にキャラクターを身近に、愛しく感じるようになったらしい。名前を覚え、グッズを買い、今も散歩がてらゲームを楽しむプレイヤーの一人だったから、その点でも、さとしさんとは話が合ったのかもしれない。


「近所に他にも仲間がいるのよ。師匠とかイケメン君とか、若奥さんとか」


「仲間って……なにする人」


「いろんな協力。ポケモンの」


「……ホントに」


 私は困惑して答えた。これ以上、地元の不思議な仲間を増やされても困る。


「わらびは? もう全然やってないの?はじめは夢中だったよね」


「とっくに終わった」


 わらびは言うと、餃子をぱくりと食べた。恋人のくにちゃんが昭和歌謡を口ずさみながら、キッチンに缶ビールを取りに向かう。


 これが私の実家だった。

 物心つく前から、父はいない。そもそも私は自分の父親が、どんな人物で、なにをしている人だったのか、きちんと教わったことがない。

 訊くと、母が困ると思ったからだ。

 会いたいとか、会わせてとか口にしたこともない。親が身勝手なので、かわりに子供が顔色をうかがって、必要以上にいい子になる。

 自分の幼少期を振り返ると、典型的にそのパターンじゃないかとあらためて思った。


(つづく)



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■ジユウな母とオクビョウな私|バックナンバー

第8話:ベランダの鳩(8)


第9話:ベランダの鳩(9)


第10話:ベランダの鳩(10)


第11話:ベランダの鳩(11)


第12話:ベランダの鳩(12)



  • 藤野千夜(小説家)

    1962年2月生まれの魚座のB型。 2000年に『夏の約束』で芥川賞受賞。 著書に『ルート225』『君のいた日々』『時穴みみか』『すしそばてんぷら』『編集ども集まれ!』など。

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