母と娘

【小説】ジユウな母とオクビョウな私 #35 恋する時間(5)

  • 更新日:2019/12/19

« 前回から読む

#35 恋する時間(5)

 空気のつぶが見える!

 突拍子もないような奥平君からのメッセージに、私は、おっ、と反応し、妙に嬉しくなった。

 ていうか、奥平君、写真撮るんだ。

 この前、そんな話、してなかったけど。

 でも、いかにも飲み会での、共通の趣味探しっぽい話題になるよりは、こうしてたまたまスケッチ散歩中にそれを知ったのが、自然と共感を深めたかもしれない。

 休日のお絵描きが趣味な私としては、もちろん好印象を持つしかない情報だった。

〈わかる! 私、今、川の中見てるんだけど、水草がずっと動いてるよ!〉

 自分でも意外なくらい素直なメッセージを返し、向こう岸にハゼ釣りの親子がいる川の景色を撮った画像を送ると、奥平君からの返事より先に、太陽から反応があった。

〈おまえら、お似合いだよ~! はやく付き合えよ〉

 さすが小中学校の同級生、クラスの人気者だった明るい太陽。今でも思春期そのままのような、からかいのメッセージと、熊が花束を差し出す、お祝いのスタンプを送ってきた。


〈てか、こごみ、仕事じゃないなら飲み会こいって。7時に肉バルね〉

 意外と面倒見のいいタイプの太陽は、まだそんなふうに誘ってくれる。

〈本当に肉バルなの? うちのすぐ下の?〉

〈そう! 待ってる!〉

 一瞬、その場にかけつける自分の姿を想像してから、私は小さく首を振った。

〈無理無理、これから寮に帰って部屋の掃除するから。終わったら洗濯物たたむ〉

〈うそ、本当にそんな休日なの? そんなふうに言って、どっかにうまいもん食べに行くとかじゃないの?〉

〈うまいもんならさっき食べたよ、アップルパイとリンゴジュース。夜は、さっき佃島で買ったタラコの佃煮でご飯! 楽しみ!〉

〈泣けてくる〉

 という太陽のメッセージにつづいて、

〈アップルパイとリンゴジュース? いいの? それ。どっちもリンゴで〉

 奥平君から、素朴な疑問が。

 もうひとりの同級生、美香ちゃんからは、

〈こごみらしい〉

 と、すでにしみじみしたような感想がひとつあった。


(つづく)



NEXT » #36 恋する時間(6)


« 小説を1話から読む

■ジユウな母とオクビョウな私|バックナンバー

第30話:ベランダの鳩(30)


第31話:恋する時間(1)


第32話:恋する時間(2)


第33話:恋する時間(3)


第34話:恋する時間(4)



  • 藤野千夜 (小説家)

    1962年2月生まれの魚座のB型。 2000年に『夏の約束』で芥川賞受賞。 著書に『ルート225』『君のいた日々』『時穴みみか』『すしそばてんぷら』『編集ども集まれ!』など。

この記事がいいと思ったら
いいね!しよう

Related関連記事

Pick Up編集部ピックアップ

Rankingランキング

#tag