母と娘

【小説】ジユウな母とオクビョウな私 #27 ベランダの鳩(27)

  • 更新日:2019/08/15

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#27 ベランダの鳩(27)

「どこにいたの、奥平君と」

 家に帰ると、相変わらずにやにやしている母があらためて訊いた。もちろん、くにちゃんもサトシさんも、一緒に部屋に上がっている。それぞれ弟と母とは、ずいぶん親しい仲みたいだったし、そうでなくても、飲み屋街にある自宅なんて、ちょうどいい、しめの一軒みたいなものだ。少なくとも、母の理屈ではそうなっていることだろう。

 私は今日行った二軒を伝えた。ベトナム料理ともんじゃ焼きという説明抜きに、店名だけを告げたけれど、近所に知り合いの多い人だけに、どちらも利用したことがあったらしい。母にはすんなり伝わった。

「ずっと二人?」

「ううん、違う」

「そんなわけないか」

 自分で否定したとはいえ、そこまで簡単に乗っかられると嬉しくない。

 それでもへそを曲げずに、

「美香ちゃんと、太陽も一緒」

 同行者をきちんと明かす私は、中学生どころか、ずっと子どもの頃のまま、「いい子ちゃん」なのかもしれない。

「あー。そういえば美香ちゃんに会うって言ってたね、出かけるとき。元気だった?」

 どうせ母のほうは、聞かされてもたいして覚えていないのに。


 冷蔵庫からロング缶のビールを取り出し、食卓に運ぶと、サトシさんがおみやげをくれた。

「今日、スーパーでめずらしいもの見つけたから」

 足元に置いたバッグから、小さなレジ袋を取り出す。中身は、パック詰めされた緑色の山菜だった。

 形をしっかり確かめなくても、商品名のラベルを見なくても、それがなんだかは簡単に予測できる。

「こごみ?」

「そう!」

 今年はまだ食べていなかったし嬉しい。

「どうもありがとうございます」

 素直にお礼を言い、

「お母さん! サトシさんに、こごみもらった!」

 大きく喜びをあらわすと、つまみのポテトチップを運んできた母は、ちょっと嬉しそうに目を細めた。


(つづく)



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  • 藤野千夜 (小説家)

    1962年2月生まれの魚座のB型。 2000年に『夏の約束』で芥川賞受賞。 著書に『ルート225』『君のいた日々』『時穴みみか』『すしそばてんぷら』『編集ども集まれ!』など。

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