母と娘

【小説】ジユウな母とオクビョウな私 #25 ベランダの鳩(25)

  • 更新日:2019/07/19

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#25 ベランダの鳩(25)

 白い電球の下がった、タイムスリップ感たっぷりのもんじゃ焼きのお店から、木造の急な階段をくだって駅前の通りに出た。

 終電にはまだ少し時間がありそうだけれど、そろそろ引き上げるように駅へ向かって歩く人も多い。

 ロータリーに沿って駅とは反対に行く私が、奥平君に、じゃあね、と手をあげると、彼は本当に家まで送ってくれると言った。彼の家は、うちとは違う通り、広い商店街を入ったところにある。もう営業をやめてしまった化粧品店だった。

「家の前まで行くよ、一緒に」

「いいよ。すぐだし」

 私は遠慮して答えた。べつになにかを警戒したとかいうわけでは全然なくて、シンプルに彼が遠回りになると思ったのだ。

「でも、酔っぱらいの多い時間だから」

「なれてるよ。昔からでしょ」

「まあね、ずっとそうだけど」

「この時間の酔っぱらいがこわかったら、昼間しか家に帰れないよ」

「確かに!」

 同じ地域の出身らしく、奥平君は笑いながら言った。

 相変わらず感じのいい笑顔だったから、そのまま一緒に歩くことにした。ちょうど酔っぱらいのおじさんたちが横を通り、身を守ってくれるように奥平君がこちらに一歩近づいた。彼らが行ってから、ね、と彼は笑った。

「よかったよ。太陽に頼まれたのに、送らないと、あとで俺が殴られる」

「え、そんな力関係なの?」

「いや、そんなことはないけど」

 ゆるい冗談を口にする奥平君が、太陽の指示通り、生真面目に家まで送ってくれる。地元での昔なじみとの飲み会は、それだけで十分楽しい終わり方になりそうだった。

「フリマって、売れるの?」

 飲み屋の多い通りに入るときに、また奥平君のフリマの話になった。通りの奥まったところで、時季のいい頃にだけ、夜に開催されるフリマだった。

「結構へんなもん売れる。家のガラクタみたいなの。貯金箱とか、メモ帳とか、ライターとか」

「へえ。ガラクタなら、うちのほうがいっぱいあるよ。お母さんの謎コレクション。プロレスのグッズとか、漫画とか、食器とか、レコードとか。私も今度、勝手に売っちゃおうかな」

「いいね、並んで売ろうよ」

「でも、わざわざ買ってるからな、お母さん。売ったら怒るかな」

 私は慎重に言った。

「お母さん本人が買いにきたりして」

 奥平君が言い、あはは、と私は笑った。


(つづく)



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■ジユウな母とオクビョウな私|バックナンバー

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第21話:ベランダの鳩(21)


第22話:ベランダの鳩(22)


第23話:ベランダの鳩(23)


第24話:ベランダの鳩(24)



  • 藤野千夜 (小説家)

    1962年2月生まれの魚座のB型。 2000年に『夏の約束』で芥川賞受賞。 著書に『ルート225』『君のいた日々』『時穴みみか』『すしそばてんぷら』『編集ども集まれ!』など。

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