『Girl/ガール』ルーカス・ドン監督インタビュー

「バレリーナを夢見るトランスジェンダーの少女、世界は彼女を知るべきだ」 『Girl/ガール』ルーカス・ドン監督インタビュー前編

  • 更新日:2019/06/28

2019年7月、「バレリーナを夢見るトランスジェンダーの少女ララ」の葛藤を描いた映画『Girl/ガール』が公開されます。『Girl/ガール』は、第71回カンヌ国際映画祭に選出され、新人監督賞ほか三冠を受賞。さらに、第91回アカデミー賞外国語映画賞〈ベルギー代表〉選出、第76回ゴールデングローブ賞外国語映画賞ノミネートを成し遂げるなど、世界的に高い評価を得た作品です。

今回は、本作が長編映画デビュー作となったルーカス・ドン監督のインタビューを前後編でお届けします。


「男らしさ」を求められ、好きなことができなかった自分に勇気を与えてくれた

『Girl/ガール』ルーカス・ドン監督インタビュー

――『Girl/ガール』は、2009年にベルギーの新聞に掲載されていた、バレリーナを目指すトランスジェンダーの少女ノラさんの記事を読んだことをきっかけに制作されたと聞きました。

当時、僕自身も、「男らしさ・女らしさ」の規範に違和感があったんです。たとえば、父親は、僕にボーイスカウトに参加し、泥だらけでキャンプを楽しむことを求めていましたが、実際に僕がしたかったのは、歌ったり踊ったりすることだったんです。

でも、自分の好きなことが「女っぽいこと」だと定義されていることを知ってから、みんなに笑われることを恐れて、本当にしたいことから遠ざかってしまっていました。

そんなときにノラの記事を読んだので、性別の壁を壊し、「普通」と思われている規範を乗り越えてまで自分自身であろうとする彼女の姿には、とても感動しましたし勇気をもらえたんです。


クラシックバレエの世界というのは、現実の世界以上に男女の役割がはっきり分かれていて、「お姫さまか王子様か」という二択しかない世界ですよね。そこで、あえて自分の本当の姿であろうとするところに、深い敬意を感じました。


世界は彼女を知るべきだ

『Girl/ガール』ルーカス・ドン監督インタビュー

――記事を読んだとき、すぐに映画にしたいと思われたのですか?

記事を初めて読んだとき、僕はまだ10代で映画を撮ったことはありませんでしたが、「彼女のことを映画にしたい」と強く感じました。世界は彼女を知るべきだ、と思ったんです。

というのは、ノラの自分自身であろうと戦う姿は、性別規範に囚われて苦しんでいる人に勇気を与える特別なものでもありますが、同時に、共感できるものでもあると感じたからです。

ノラの記事を読んだとき、「彼女は性別の規範を壊そうとしている」というふうに最初は思いました。ですが、ノラに実際にコンタクトを取り、接してみると、別の側面も見えてきたんです。

彼女は、性別の規範を壊して、特別な存在になろう、と考えていたのではなく、むしろ、ほかのバレリーナと同じようになりたい、自分を集団の中に溶け込ませたい、と考えていたのです。それを知ったときに、「僕と同じだ」と感じました。


完璧な「男らしさ・女らしさ」を目指し、自分を裏切っていた

『Girl/ガール』ルーカス・ドン監督インタビュー

僕も10代のときは、「男の人はこうあるべき」というイメージに全てのエネルギーを使って必死に合わせようとしていたんです。だから、性別役割についての自分の葛藤は、彼女のものとは違ってはいるんだけれど、通底するものがある、と思いました。


僕らはふたりとも「男とは、女とは、こうあるべきだ」とイメージしている完璧な姿があって、そうならなきゃ、と焦って葛藤していたんです。振り返ってみると、当時は、「完璧な男・女であろう」という思いが強すぎて、本来の自分をある意味裏切ってしまっていた側面もあったのかなと思います。


「男らしい・女らしい」なんて言葉は、もう時代に合わない?

『Girl/ガール』ルーカス・ドン監督インタビュー

僕自身は、今現在、「性別役割に合わせなければ」という思いはなくなってきています。「男らしさ=強さ」とか「女らしさ=エレガント・柔らかさ」というようなイメージがこれまではあったと思いますが、今の時代、強い女性、エレガントな男性もいますよね。


「男らしさ・女らしさ」という規範に縛られる必要のない時代ですから、「男らしさ・女らしさ」という言葉はなくなった方がいいんじゃないか、と思ったりするほどです。


実際、「男らしさ・女らしさ」と言われているもののほとんどは、「固定のもの、生まれ持ったもの、そうでなくてはならないもの」ではなく、演じることができるものに過ぎないのでは、と思うんです。


「ノラの内面の葛藤を表現できるか」が一番のプレッシャーだった

『Girl/ガール』ルーカス・ドン監督インタビュー

――本作は監督の長編デビュー作になります。プレッシャーは感じていましたか?

自分にとって一番プレッシャーを感じていたのは、ノラの姿を、主人公ララとしてきちんと描くことができるか、という一点でした。

そのプレッシャーは、ノラが本作を観てくれたときに解消されました。ノラは、「ララの物語は私の物語だ」と言い、自分自身がかつて葛藤していたことが、『Girl/ガール』で表現されている、と認めてくれたんです。



>>インタビュー後編に続く


インタビュー後編では、監督が映画を作る理由や、ハリウッドで一時論争となった「シスジェンダーの俳優がトランスジェンダー役を演じることへの批判」などに対する考えをお聞きします。


★『Girl/ガール』は、2019年7月5日(金)から、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほかで全国で上映予定です。気になった方は、ぜひチェックしてみてくださいね。




作品情報

映画『Girl/ガール』

配給:クロックワークス、STAR CHANNEL MOVIES

© Menuet 2018


  • 今来 今 (フリーライター)

    神戸出身。編集者を経て現在フリーライター。複数メディアにて、映画評・書評・ルポなどを連載中。

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