母と娘

【小説】ジユウな母とオクビョウな私 #24 ベランダの鳩(24)

  • 更新日:2019/07/09

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#24 ベランダの鳩(24)

「よし! こごみは友だちがいなくて可哀想だから、俺たちのグループに入れてやる!」

 お酒をくいくい飲み、ますます酔いを深めた様子の太陽が言った。

「いいって、そんなの。友だちいるし」

「遠慮すんなよ、飲み会は毎週、金土日のどれかだから」

「毎週……」

 中学のとき、短期間でもどうしてこの人のことを好きだったのだろうと不思議に思いながら(クラスの遊び面でのリーダーっぽいのが、格好よく見えたのかもしれない)、結局、美香ちゃんからLINEで招待をうけた。

 よろしく、と無料スタンプでメッセージを送ると、太陽と奥平君からも、歓迎のスタンプが届く。

 他にはメンバーのいない、三人とのグループだった。本当にご近所で飲み会をするときの連絡用にしているのだろう。

 ふと静かになった気がして、スマホから目を上げると、太陽と美香ちゃんが顔をくっつけて眠っていた。がっしりした太陽に、細い美香ちゃんがもたれかかっている。

「太陽は、いつも仕事が朝早いから、夜はすぐ眠くなるらしいよ。美香ちゃんも。それなのに飲みたがるんだよね」

 まだ学生の奥平君が、やわらかい声で言った。太陽はともかく、美香ちゃんが幸せそうに目を閉じているのを見て、しばらくそのまま寝かせておこうという気になった。

 酔い覚ましのソフトドリンクを一杯ずつ頼み、奥平君とは、月島に林立するタワーマンションが凄いといった話や、彼が最近参加したという、地元のフリマの話なんかをして過ごした。

 やがて太陽が目を開けて、

「お。眠ってた」

 と言い、美香ちゃんが眠っているのに気がつくと、

「今、何時か知らないけど、もう遅いんだったら帰ったほうがいいぞ」

 と、こごみに声をかけた。「奥チン、送ってって。会計はしておくから。また来週!」

「おう」

 と同級生らしく奥平君が応じ、ちょっと様子を窺ってから「じゃあ行こっか」とこごみをうながした。べつに十分や二十分を急ぐわけでもなかったけれど、美香ちゃんがあとどれくらいで復帰できるかもわからない。

 少し酔いも醒ましたし、ちょうどいい切り上げ時という気はした。


(つづく)



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■ジユウな母とオクビョウな私|バックナンバー

第19話:ベランダの鳩(19)


第20話:ベランダの鳩(20)


第21話:ベランダの鳩(21)


第22話:ベランダの鳩(22)


第23話:ベランダの鳩(23)



  • 藤野千夜 (小説家)

    1962年2月生まれの魚座のB型。 2000年に『夏の約束』で芥川賞受賞。 著書に『ルート225』『君のいた日々』『時穴みみか』『すしそばてんぷら』『編集ども集まれ!』など。

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