母と娘

【小説】ジユウな母とオクビョウな私 #23 ベランダの鳩(23)

  • 更新日:2019/06/06

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#23 ベランダの鳩(23)

「こごみって、友だちいないの?」

 じっと私の目を見て、はっきり訊いたのは太陽だった。

 月島の寮で暮らして二年ちょっと。休日は一人で過ごすのが好きで、わざわざご近所にもんじゃ焼きを食べに行ったことがないのは本当だったけれど、だからって「友だちがゼロ」と決めつけられるのは納得がいかない。

「いるよ……少しなら」

「少し!」

 また揃って三人から笑われた。さすがにバカにされたのかと瞬間ムッとすると、奥平君が横で、ごめん、と笑顔で言ったから、ま、いっか、と気をしずめた。

「でも地元の人は、あんまりもんじゃ焼きは食べに行かないらしいよ。前にレトロ喫茶のおじいさんが言ってた」

「レトロ喫茶の、おじいさん?」

 太陽はあくびまじりに大きな口を開けて言った。「まさか……それが友だち?」

「違うって」

 飲んだ上での「からかい」とはもうわかったけれど、きちんと訂正しておかないと気が済まない。そんな私の気質を、人は真面目と呼ぶのかもしれない。

「引っ越してすぐに、近くのレトロ喫茶に入って、マスターにいろいろ訊いたんだよね。八十歳くらいの、白髪あたまのおじいさん。昔からもんじゃ焼き屋さんの多い町だったんですか、って訊いたら、そんなわけあるかい、って笑われた」

「へえ。違うんだ」と奥平君。

「うん。そもそも、こどもの食べるもんだろって言ってたよ。名物だとかストリートだとかは、頭のいい誰かが観光客向けに考えたんだろ、だって。お店が増えはじめてから、まだ二、三十年……せいぜい四十年らしいよ」

「なっがい歴史」

 と美香ちゃんが半分くらい呆れたふうに言う。確かに三十年前だとしても、私たちが生まれる五年も六年も前だった。


 すみません、おねえさんたち、年齢確認できるものって、ないですか?

 えー、二十歳だけど、今日なんにも持ってない。

 じゃあ、ソフトドリンクでお願いします!

 近くのテーブルで、女子二名が店員さんにアルコールの提供をやんわり拒否されている。

 聞くともなくそれを聞きながら、四人揃って、残り少なくなったもんじゃを鉄板から「はがし」でこそげ取った。餃子の羽根みたいに、うすく小麦粉の焼けた部分がくっついてきて、また味わいがあっていい。

「私たち、あんなふうに訊かれなかったね」

 眠たげな口調の美香ちゃんが、誰にともなく言った。


(つづく)



≫ 次回『ベランダの鳩(24)』は6月20日(木)配信予定です。お楽しみに!


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■ジユウな母とオクビョウな私|バックナンバー

第18話:ベランダの鳩(18)


第19話:ベランダの鳩(19)


第20話:ベランダの鳩(20)


第21話:ベランダの鳩(21)


第22話:ベランダの鳩(22)



  • 藤野千夜 (小説家)

    1962年2月生まれの魚座のB型。 2000年に『夏の約束』で芥川賞受賞。 著書に『ルート225』『君のいた日々』『時穴みみか』『すしそばてんぷら』『編集ども集まれ!』など。

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