母子感染

母子感染ってなに?今すぐ知ってほしい病原体とは

  • 更新日:2019/02/05

昨年の春頃、当時妊娠中だった女優でモデルの佐々木希さんが、インスタグラムに「切り口の赤いローストビーフ」をレストランで食べている写真を投稿したところ、「妊婦に生肉は危険では?」との指摘が読者から相次ぎ、炎上騒ぎとなったことをご存知でしょうか?

実はこの指摘、ある病原体の「母子感染」を危惧してのものなのです。


その病原体とは、肉に含まれる可能性があるトキソプラズマという原虫のことです。レアステーキやローストビーフ、レバ刺しなどの加熱不十分な肉や、ネコの糞などから妊婦がトキソプラズマに感染し、これがお腹の赤ちゃんにまで移行して悪さをする可能性があるのです。(詳細は第2回で掲載します)


風疹ウイルスも含まれる「TORCH症候群」とは?

TORCH症候群

このように「妊娠・分娩・授乳や育児を通してお母さんから赤ちゃんにウイルスや細菌、寄生虫などが感染すること」を母子感染といいます。

特に妊娠中は、赤ちゃんを排除しないように、意図的に体が免疫力を低下させるため、感染症にかかりやすいと言われています。


母子感染する、代表的な病原体の頭文字をつなげたものをTORCH(トーチ)症候群といいます。

これらの病原体による感染は、母体での症状は無いか、あっても軽いものなので妊婦自身はなかなか気づけません。しかし、これら病原体によりお腹の赤ちゃんの成長が邪魔されると、流産・死産から脳障害、てんかん、視覚・聴覚障害、心身の発達障害など、様々な障害を引き起こす可能性があるのです。


毎年数千人も赤ちゃんが感染しているウイルスって?

TORCH症候群には、現在大流行中の風疹ウイルスも含まれ、赤ちゃんに先天性風疹症候群を引き起こします。

ですが、こういった有名な感染症の影で、毎年何百~何千人もの赤ちゃんに感染を起こしているトキソプラズマ原虫とサイトメガロウイルス(以下、CMV)による母子感染はほとんど知られていません。


まず、トキソプラズマ原虫とCMVという病原体の名前を知っている方はどれくらいいるのでしょう?

トキソプラズマ

画像提供:トーチの会

厚労省の研究班が神戸大学医学部附属病院に通院中の妊婦さんを対象にアンケートをとったことがありました。その結果を見れば、認知度の低さは一目瞭然です。さらに、知っていると答えた人が持っているその情報も、正確かどうかは疑わしく、実際はこの数字よりも更に少ない事が想定されます。


「認知度の低さ=頻度の低さ」と思っていませんか?

一方で、「滅多にない病気なのだから、知っている人が少ないのは当然なんじゃないの?」という意見もありますが、それは誤解です。

認知度の低さ

画像提供:トーチの会

こちらは、新生児が全員受ける先天代謝異常スクリーニングの項目にある病気やダウン症と比較した表です。多くの人が知っているダウン症と同じくらい、頻度が高いことがわかります。


日本では毎年100万人の赤ちゃんが生まれていると考えると、CMVに先天感染している赤ちゃんは毎年3000人以上生まれ、そのうち何らかの症状が出てしまった赤ちゃんは、毎年1000人いるという計算になります。トキソプラズマに先天感染して何らかの症状を持って生まれた赤ちゃんも、毎年200人位生まれていると推定されているのです。


先天性風疹症候群と比較してみても、前回の風疹流行時の発症人数は45人であり、(実際は、流産死産や中絶された赤ちゃんも含めればもっといると推測されます)比べてみても、大きな数であることがわかります。


病原体によって認知度が違うのはなぜ?

このように、決して “滅多にない稀な病気” ではないのに、知っている人がほとんどいないのはなぜなのでしょう?

まずは、国や自治体が発信する情報の不足です。妊娠すると母子手帳をもらいますが、そこには病名も予防法も書かれていません(自治体に任されたページにだけ掲載されていることはありますがかなり少ないです)。


母子手帳と一緒に配布されるパンフレット類も同じで、厚労省が作成したパンフレットにさえ書かれていません。例えば「母子感染症を知っていますか?」というパンフレットがあるのですが、そこにはトキソプラズマもCMVも出てきませんし、ここに取り上げられている感染症ですら具体的な予防法は書かれていませんから、これを見たところで妊婦は何をどう気を付けたらよいのか、知る術がありません。

パンフレット

引用元:厚生労働省

とはいえ「最近の妊婦さんは母子手帳やパンフレットを読むよりネット検索するほうが多いので、別に問題ないのでは?」と思う方もいるかも知れません。


しかし、専門家ではない人たちがネット上で交わす情報には嘘も多く混ざっており信用できるとは限りません。医療専門サイトと謳っているところでさえ、素人が適当に記事を書いていたというニュースもあったくらいです。つまり、相当な情報リテラシーを持っていないと、インターネットの大海の中から正しい情報を拾い出すのは難しいのです。


以上のことから、情報はあふれているはずなのに、必要な情報・正しい情報に行きつくのは意外と難しいことなのです。


コウノドリでも取り上げられた母子感染症のつらさ

【引用】コウノドリ(20) (モーニング KC)

週刊モーニングで連載中の「コウノドリ」(講談社)という漫画の『TRACK 母子感染症』の回(20巻/2017年10月23日発売)で、主人公の産科医師サクラが発した言葉が、当事者家族の気持ちを物語っています。


「ほんの少しの知識がなかったせいで母子感染症にかかり 後悔をしてず〜~っと自分を責め続けている母親を見ているし…… そんな奥さんや病気や障害を持った我が子を目の前に何もしてあげられず苦しんでいる父親を見ています」(週刊モーニング コウノドリ20巻より引用)


妊娠前・妊娠中に、必要な情報・正しい情報を入手出来なかったために、予防策を取ることができず、我が子に障害を与えてしまったと後悔し、苦しむ母親、家族がいるのです。

トーチの会

画像提供:トーチの会

知ってほしい!母親たちの思いから発足した『トーチの会』

そして、自分たちのようなつらい経験を他の親子にさせたくないと考えた母親たちが集まって、先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症患者会「トーチの会」はできました。

トーチの会HPには妊娠中の一般的な感染症予防法11か条やネコとの上手な付き合い方、乳幼児との感染リスクの低いふれあい方などがわかりやすくまとめられています。


妊娠中の感染予防のための注意事項 – 11か条

1. 石鹸と流水で、しっかり手を洗ってください。

2. 小さな子供とのフォークやコップの共有、食べ残しを食べることはやめましょう。

3. 肉は、しっかりと中心部まで加熱してください。

4. 殺菌されていないミルクや、それらから作られた乳製品は避けましょう。

5. 汚れたネコのトイレに触れたり、掃除をするのはやめましょう。

6. げっ歯類(ネズミの仲間たち)やそれらの排泄物(尿、糞)に触れないようにしましょう。

7. 妊娠中の性行為の際には、コンドームを使いましょう。

8. 母子感染症の原因となる感染症について検査しましょう。

9. B群溶血性レンサ球菌の保菌者であるか検査してもらいましょう。

10. ワクチンが存在する感染症(たとえば麻疹、風疹や水痘)から自分と胎児の身を守るために、妊娠前にワクチンを打ちましょう。※1

11. 自分が十分な抗体を持っていない場合、水痘や風疹などに感染している人には近づかないようにしましょう。※2


※1 現在妊娠している方は、出産後、なるべく早く次の妊娠までの間にワクチンを打ちましょう。

※2 感染者に接触した場合はすぐに病院に連絡して下さい。水痘や麻疹の場合は、すぐに免疫グロブリンの注射をすることで発症を防ぐことができるかもしれません。


予防は妊婦本人だけが気をつけるだけでは、成立しません。せっかく妊婦本人が気をつけようと努力しても、周囲の人間から、神経質だ、気にしすぎだと非難をされることで台無しになってしまうのです。周囲の人の理解や助けがなくては十分な予防はできないのだということを、全ての人に知ってほしいと思います。


これから生まれてくる赤ちゃんとその家族の笑顔を守るために、まずは知ることから始めましょう。



▼関連記事

妊婦が赤ちゃんを守るために心がけること三か条【トキソプラズマ】


二人目ママさんにこそ知ってもらいたい母子感染って?



医師監修

森内 浩幸(もりうち ひろゆき)

長崎大学大学病院 小児科、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 &熱帯医学・グローバルヘルス研究科 小児科学分野 教授 

http://www.med.nagasaki-u.ac.jp/peditrcs/staff/staff_moriuchi.html


参照・引用・協力

・トーチの会HP


・Facebook


・Twitter


・Instagram


【実話】障害を持って生まれ16歳で亡くなった少女と愛犬の物語

・エリザベスと奇跡の犬ライリー(サウザンブックス)



  • 渡邊 智美 (歯科医師、先天性トキソプラズマ &サイトメガロウイルス感染症患者会「トーチの会」代表)

    2011年に先天性トキソプラズマ症の子を出産。NHK「トキソプラズマ特集」の取材協力をきっかけに啓発を始め2012年にトーチの会を設立。HPやSNSでの情報発信、講演や研修など啓発に力を入れている。

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